その気にさせないで
★★★☆☆
税理士ウィリアム(ファブリス・ルキーニ)の元に、アポなしで相談にやってきた美女アンナ(サンドリーヌ・ボネール)。税金の相談かと思いきや、アンナのお悩みは「夫が自分を抱いてくれない」という夫婦生活にまつわる性相談だった。話の途中で、アンナがお隣の精神科医と部屋を間違えたことに気づくウィリアムであったが、精神を病んだ諍女にひかれたウィリアムは自分が税理士であることをついいいそびれてしまう。
このシナリオの面白さは、カウンセリングする側にも深刻な苦悩があり、相談する人とされる人の立場がいつのまにか逆転してしまう展開にあるといえるだろう。一見リッチな独身貴族の税理士ウィリアム、実は父の仕事を部屋ごと引き継いだひきこもり中年。穴倉のような部屋に閉じこもって、父の代からの顧客から税相談を受けるウィリアムには、自宅に帰ったところで出迎える妻や子供もいない無縁死に限りなく近い生き方をしている。
そんなフランスの草食系オヤジに突如として訪れた人生の春。既婚者というマイナス要素は気になるが、正体がバレた後でも事務所に通ってくるアンナは絶対オレに気があるにちがいない。美女から艶かしい性相談をされ、すっかりのぼせ上がってしまう男の狼狽ぶりがとにかくおかしいのだ。劇中ハンディカメラによる主観映像が数多く使われているのだが、アンナの胸元や唇、スカートの裾を遠慮がちにちら見する男性心理がルコントらしく繊細に表現されている。
しかしこのオッサン、愛するアンナのために特に何かをしたというわけでもなく、男にとって都合が良すぎるラストの展開は少々いただけない。実の夫とアンナのアブノーマル関係も最後まではっきりと説明されておらず、あいまいにぼかされたまま。毎晩どんなプレイをしていたんだという妄想をかきたてるだけかきたてておいて、そのまま生殺しはないだろうというのが(肉食系オヤジの)正直な感想だ。
こんな関係もあっていいな、と思える。
★★★★★
まさしく「大人のためのおとぎ話」というべき作品。
不思議な、謎めいた、女の言動。
彼女は何を求めているのか、そして男はそれにどう対処するべきなのか?
分かるような分からないような──でも、やっぱり何となく分かる。
この二人の関係は本当に「不思議」な関係。
お互いに、何を求めているのか、あるいは一体何かを求めているのかどうか、微妙な、危うい均衡を保っている。
「不思議」だし、周りからは理解されにくいかもしれない、いや、本人たちも「理解」などはできていないのかもしれない。
それでも、こんな関係もあっていいな、と思えてしまう。
そして、こんな映画もあっていいな、と思える。
同じ監督の、かつての『仕立て屋の恋』もよかったが、こちらのほうが、より心安らかに見終えることができた。
よい作品に出会えた、という満足感が残っている。
また、やはり映像的に一場面一場面が美しく、「さすが」と思わせられた。
パトリス・ルコント監督の語り口の上手さはさすが!
★★★★★
パトリス・ルコント監督作品としては、「仕立て屋の恋」や「髪結いの亭主」に近い作品でしょうが、監督自身「アンナのストリップ」と呼んだ様に、ハッピーエンドに向けてサンドリーヌ・ボネールの服装が軽装になり、表情が明るくなって行くのがとても印象的でした。また、いつも目をきょろきょろさせながら彼女にのめり込んで行く税理士を演じるファブリス・ルキーニも好演!特典映像にパトリス・ルコント監督自身の作品解説が付いていて、とても面白いので、こちらも是非見て下さい。
サスペンスとして○
★★★★★
悩みを打ち明けられた税理士が
真実を言えないまま、その女に惹かれて行く姿、
揺れ動くおじさんの恋心。
うまいなー。この辺が
おじさんの視線と動揺を見事なカメラワークと構図で見せてくれる。
いやぁ、まいった。
大人の恋を描かせたらピカイチ
★★★★★
カウンセラーと間違われて、赤裸々な悩みを打ち明けられた税理士。
真実を言い出せないまま、その女に惹かれて行く姿、揺れ動く男の恋心。
ルコントは男の視線と動揺を見事なカメラワークと構図で見せてくれる。
冴えない中年税理士が、恋で変わっていく姿は可愛らしくもあるし、せつなくもある。
女の話が真実なのか?というミステリーをはらみながら、男の恋の行方を見守りたくなる。
核心をみせない焦らした展開とエロスルコント節はさすが。
地味ながらも、後味のいい大人の恋の物語。