1960~70年代の韓国で、大統領官邸のある町に住んでいたことから、大統領専属の理髪師となったハンモ。不正選挙や軍事クーデター、北側の脅威などを背景に、彼の一家の物語が、息子が語るナレーションとともに綴られる。韓国の激動期が市井の人々の目線でとらえられ、ほのぼのとした後味に包まれる珠玉作だ。
主演のソン・ガンホが『殺人の追憶』と同様、本作でも計算しつくしたような素晴らしい演技をみせる。初めて大統領の髪を切るときの緊張感から、息子の病気を治そうと必死になる父の顔までを、さまざまな表情で演じ分け、すんなり共感させられるのだ。本作に描かれるエピソードの多くはユーモアというオブラートに包まれて描写されるため、随所で笑いを誘うのだが、描かれている事件自体は、かなりシリアス。脚本・監督のイム・チャンサンは、笑わせながらも、感動や恐怖、当時の政府への批判を水面下で高めていく。初監督作とは思えない演出力に、韓国映画のパワーが感じられる。(斉藤博昭)
事前に公式サイトで軽く勉強してから見てください。
★★★☆☆
グエムルでソン・ガンホを知って面白い役者だなと思い、こちらの作品も見てみました。
作風にもぴったりで超ハマり役でしたね。
コミカルで庶民的なお父さんを演じさせたら右に出るものはいないでしょう。
映画としては社会風刺的な面が多くて(コミカルに描いてはいるのですが)
少しでも良いので韓国史や当時の韓国の風潮を知っておいた方が楽しめると思います。
公式サイトに載ってるので事前に読んでおくことをおすすめします。
僕はその辺の事情を知らないまま見たので「・・・?」な部分も多少ありました。
作風としては好きですし独特のユーモアもあり楽しめた作品でしたが、僕は感動は出来ませんでした。
後半、もうひと山欲しかったなぁ。
父親の優しさは伝わってきたんですけどね。
息子のために必死になる過程がコミカルだったせいなのかな。
苦いユーモア
★★★★☆
この映画は韓国事情を知ったうえで鑑賞、吟味すべき作品だ。
例えば、韓国では「文尊武卑」とでもいうべき伝統があり、肉体労働は職業としては下に見られていることを前提として頭に入れておかないとこの映画を理解したとは言えないだろう。だから「床屋の息子」と馬鹿にされるのだし、その傍からみるとつまらぬ職業で家族を養い守っていく不器用だけど優しい父親(最後には意地を見せる場面もある)に感動するのだ。
激動の韓国現代史のなかで確固たる主義主張もなく「長いものには巻かれろ」的に右往左往する主人公の姿は滑稽ではあるが、当事者であった韓国人には内心忸怩たるものがあるのではないか。共産主義を「下痢」にたとえるなど、冗談であって冗談ではない。思い出したくない経験をした者も多かろう。
主人公の子供が最後に歩けるようになるのは、韓国国民の独り立ちの比喩であろうか。そのためには、父の粘り強い支えと大胆な行動が必要だったわけだ。ベトナム戦争に行って、身体の傷と心の傷(アメリカへの幻滅)を受けて帰ってくる床屋の助手のエピソードも切ない。
とぼけているようでもしんの強い主人公は決してやさしい役ではないが、ソン・ガンホが実力を発揮。ムン・ソリもしっかり脇を固める。
大統領、室長、部長がどういう結末を迎えるかは、「ユゴ―大統領有故」をご覧下さい。
強弱のない平坦な映画…加えて惜しい映画です
★★☆☆☆
1960〜70年代の韓国の政治的激動の時代を一人の平凡な理髪師が大統領専属の理髪師になり、その観点から時代を描いた映画。率直な感想としてもっと映画として浮き沈みを付けてほしかった。歴史的事件を描くシーンや庶民の生活に観点を当てたシーンなど映画構成としてわかりやすいのだけれどもどうも盛り上がりに欠ける。決定的なシーンや衝撃的なシーンを激動の時代だからこそ作ってほしかった。さらにコミカルに描いているので説得力に欠ける。大統領専属の理髪師になってしまった一人の男の心理の移り変わりや家族愛、政治の権力闘争に庶民の生活。メッセージとして伝えるところは沢山あるのに全てが中途半端で平坦、薄めた飲み物のような後味でした。60年代70年代の時代背景。瓦屋根の家屋や小道具、衣装やそれを着る俳優たちの容姿や演技などはとてもよくできていてその時代の雰囲気がリアルに伝わってきました。惜しい映画だな…という感想は否めないです。
強くて温かい父性愛
★★★★☆
ソン・ガンホの演技が素晴らしい。今まで個性的な俳優のように感じ、どちらかと言えば苦手な分野の俳優だったが、この映画の名演技を見て印象が変わった。やはり韓国映画を代表する俳優なのだとつくづく感じられる。持ち合わせた顔や体型が、この映画の父親役に妙にマッチしていてぴったりの配役。ムン・ソリのおばちゃんっぷりも素晴らしい。子供の障害に気が付いた時、声を挙げ号泣する姿はいかにも韓国人オモニ(母)らしく思わずもらい泣きしてしまった。子供役の俳優も素晴らしい演技力。ソン・ガンホが子供をおんぶして名医を探しに行く時、二人きりで海を見るシーンが良かった。父親の背中がとても広く温かく感じた。ソン・ガンホ演じる理髪店の店員役で「冬のソナタ」」にてヨングク役をしていたリュ・スンスも出ている。彼のプレスリーの物マネもなかなか上手。独特な時代を映画にしたのだと感じ取れ、一見怖い時代のようでもあり、しかし一般市民が活き活きと描かれているシーンもあり、笑いあり涙ありの映画だった。
やっぱりソン・ガンホはスゴイ役者です!
★★★★☆
遅ればせながら観ました。昔「JSA」を観たときからソン・ガンホはカッコ良くないんだけど注目してきましたが、ここまで何の事件もないようなストーリーで、しかも平凡な市民の役で最後まで引っ張っていける演技力はスゴイです。
場所が韓国で、時代が1960・70年代という設定。(日本でも流行の昭和30年代ですが)国は違っていても「アジア人」が観ると妙に懐かしさを覚えるような気がします。世界中が、政治も社会も激動の時代で、1つ1つの事象の重大さはともかく、アジアのどこの国でも<あったかもしれない>ごく普通の人々の話で、ラストの奇跡もあってもいいなと皆が思ってしまうような、お話です。
歴史の流れに巻き込まれながらも淡々と生きるしか術がない、カッコ悪いお父さんが、子供のために頑張ってしまう時は誰にも知られないけどヒーローに変身しています。どこまで行ってもカッコ悪くて、ヒーローに変身してもふがいなく、カッコよくはなれない。こんな幅の狭い中で演じて最後まで飽きさせずに持っていけるソン・ガンホの演技力は、脱帽ものです。
古臭いユーモアやセピアがかった映像、淡々と進むストーリーなのに、皆が結構感動したりできるのも、役者の演技力に加えて、脚本その他の構成力も優れているからだと、観終わったあとでつくづく思う1本でした。