まず第一に、ロールズの「無知のヴェール」をやたら引き合いに出し、自分の表現で説明・適用しようとしているが、それなら井上達夫の「反転可能性」の一語で片付く話である。
第二に、ミルの危害原理もやたら使いたがるけれど、本書のような使い方は今更な話で、何もミルを引かなくてもわかる範囲だ。
第三に、ロールズ正義原理を日米関係に適用した場合、日本側の市場の閉鎖性が一方的に問題であると主張するが、ロールズに従って日米関係に原初状態を適用すれば格差原理の範囲に該当し、土屋の主張通りにはならない。
第四に、最大の欠点だが、リベラリズムの最も魅力的な部分は本書で扱われていない。
本書によってリベラリズムが判断されるのは寒心に堪えない。リベラリズムはこんな浅い思想ではないはずです。
疑問なのは、共同体主義者が用いるラカンの「鏡像段階」(自我の分節化)の議論を認めながらも、「人間の本質が共同体によって決定されているとすることに反対」すると主張している点である。自我が本質的に言語により構成されており、そのことから共同体の言語構造から自由ではありえない点についてはどう考えるのであろうか。