3か月にもわたるスペイン・ロケ、最新鋭デジタル・シネマ・システムによる撮影、一般観光客には入れない礼拝堂も含め世界初のアランフェス宮殿での演奏映像、スペイン気鋭の映像ディレクター、ジョアン・リエドベックの起用による映画的制作、どれをとっても人気・実力ともにず抜けた村治だからこそ実現したぜいたくな企画。
遠い異国スペイン独特の微妙な光と影と空気感、大理石の回廊の音、そして演奏する村治の息づかい…。最新鋭ハイビジョン映像のディテールと5.1chサラウンド音響の効果を満喫できるという意味でも絶好の作品だ。そしてここから浮かび上がってくるのは、ビジュアルばかりではなく、ひたすら純粋に音楽に没入する村治の凛(りん)とした精神の美しさである。とりわけエンシナル指揮マドリッド州立交響楽団をバックに演奏したアランフェス協奏曲は、村治をはじめ全員が息をのむような集中力で、画面から眼が離せなくなる出色の出来。あらゆる音楽ファンを納得させる待望の映像ソフトの登場である。(林田直樹)