カリブ海・仏領マルティニック選出の国会議員でありながら、詩人・批評家でもあったセゼール。文学者としては理想を追う反植民地主義の批評家であった彼も、政治家としては妥協と失意の人だった。その矛盾は文学者から見ると欺瞞的な存在に見えるだろうけれど、現実の社会の難しさというものを考えると、彼の人間臭さを示すエピソードでもある。(意外に、学生運動世代の抱える存在的矛盾というのも、こういう性格のモノなのかもしれない。)
植民地主義の矛盾を生きた文学者&政治家の伝記と詩・評論が一冊にまとまった良書です。ヒューマニズムや国民主義が、いかに植民地主義と表裏一体かを指摘した評論は小品ながらインスパイアされるものがあります。カバー・デザインも秀逸。