時代を超えて普遍的に通用するものがある
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西洋音楽の3大構成要素にリズム、ハーモニー、メロディーがあります。
この本では、これらのルーツに迫る調査・研究についての見解が書かれています。
偏見を持たず、日本、ヨーロッパ、中東、アジア、アフリカ・・その他あらゆる地域の音楽という音楽・・・いや、「自らうたったり、鳴らしたりする」原始的な経験に触れ、それぞれの地域における歴史的な生い立ちや関連性を調べ、そこから普遍的な考察を導き出し、未来への提言につなげています。
26年前に亡くなった方なので、著書は30年〜40年前の対談や講演で話されたり、書かれたものですが、今の時代でもまったく色褪せないものを感じます。
ジョーゼフ・キャンベルが『神話の力』で語っているような知恵が感じられます。
特に僕にとって興味深かったものが、アラスカのカリブー・エスキモーと鯨エスキモーのリズム感の違いのエピソードです。人間の共同社会生活の成り立ちを支えてきたものとしての「音楽」の存在、これに関するエピソードとして紹介されたものでしたが、この考察は極めて興味深いものでした。
カリブー(鹿)を狩って生活しているエスキモーは、歌と太鼓のリズムがめちゃくちゃだが、鯨を食べるエスキモーは歌と太鼓の拍子、歌声の旋律を合わせることが得意。
小泉は、この理由を探るために、彼らの狩猟生活のスタイルの違いに注目し、
一人でも狩ができるカリブーの狩猟と違い、鯨猟は集団での狩猟だからこそ、歌・踊り・拍子をそろえる音楽で集団の呼吸を合わせる練習を普段からしてきたんだという洞察に至っています。
彼はここから、『人間は頭が良いから音楽をもったのではなくて、食べていくために集団社会を形成し、リズム感を獲得する必要があった。』と考え、その後に確信を得るための研究活動へつなげています。
(ヤミ族という首狩族についても、歌声をそろえることが得意な部族は仕事もできるということを調べています。)
音楽って誰かが発明して教えたわけでもないのに、
世界中のあらゆる地域の民族が、それぞれの共同社会生活の中の必然性に応じて発達させてきたというところが伝説や神話、宗教の発展と酷似しているように思います。
やはり、物事の成り立ちをたどっていくと、DNAや集合的無意識というものにたどりつくのだと思いますし、そういうものなんでしょう。
つまり、リズムやハーモニーの原点にしたがって解釈すると、
「人の心や意識を統一するもの」、ということになるのでしょうか。
ということは、単にリズム感が良い音楽、ハーモニーが美しい音楽が人の心を動かすのではなくて、この原点に迫ることができれば、それだけ感動を呼ぶ音楽の創造につながるということも言えそうですね。