『ビリケン打撃投手』スポーツの素晴らしさをストレートに描いた読後感の爽快な作品。ストライク。
『ビーンボール』なんやねんこれ文字通りビーンボールじゃこの作者とこの短編集は一筋縄ではいきませんぞ。ボール。
『56号』大リーグボール3号じゃないけど、打てない(打ってはいけない)魔球です。皮肉な変化球でボール。
『リリーズ・チョイス』ここまできわどいコースを攻めていいんですかっ?って内角をえぐる変化球でボール球。ちなみに主人公の名前は、近い将来プロで活躍しそうな高校野球界の某投手と偶然そっくりで、びっくりしました。
『ぐでんぐでん』ストレートな恋愛、、、と思ったら最後でオチてました。フォークボールでしたね。空振りでストライク、カウントここまで2ストライク3ボール。
『さよならのチャンス』この作者の描く恋愛は、割と単純なストレートものが多いような気が……スポーツ選手には小難しい理屈よりもそういう直球勝負の方がいいのでしょうが。途中でオチが見えちゃっていた真っ正直な渾身のど真ん中ストレート勝負。それでも物悲しくも美しい描写は心に響くストライクでした。
結局私はフルスウィングできぬまま見逃し三振でしたが、この三振から何かを心に期して、次の機会でフルスウィングをしろよ、とこの本は教えてくれるのでした。
流した汗の量だけではどうしようもない斯界の厳しさと、
青さの取れた主人公の、揺らめき続ける静かな情熱の行方。
しがないサラリーマンの私に、これはガツンときました。
オトナの青春小説だなあと思いました。
これ以外にも、完璧な殺人計画の顛末を描いた「ビーンボール」や
球界のタブーに果敢に挑んだ(?)「56号」(オチにニヤニヤ)、
爽やかでそして哀しい恋愛小説「さよならのチャンス」
と、同じ作者とは思えない広角打法で野球好きの私の心をくすぐります。
また、野球に興味がない人にも何かを訴える力のある、
そんな優れた短編集ではないでしょうか。
最後に。この本を紹介した書評に腹が立ったので一言。
いつも読んでる「週刊ベースボール」に載っていた、石富仁さんという
ライターの文章がひどすぎます。一見誉めているようなんですが、
本当にちゃんと読んだのかさえ怪しく思えるような内容です。
こんな下品で低俗な書かれ方をされては著者が迷惑だし気の毒です。
あんな文が名の通った歴史ある野球誌に掲載される事自体大変不愉快です。
編集部の方々の猛省を望みます。