この本は、20人の映画監督が最初の作品について語るインタビュー集である。コーエン兄弟、ケン・ローチ、アン・リー、ケビン・スミス、アンソニー・ミンゲラ、ゲイリー・オールドマン、ニール・ジョーダン、ミラ・ナイールなど、さまざまな映画監督が、彼らのデビュー作について率直に生き生きと、秘話も交えながら詳しく語っている。
各章は、『Angel』(邦題『殺人天使』)、『Blood Simple』(邦題『ブラッドシンプル』)、『Clerks』(邦題『クラークス』)、『Diner』(邦題『ダイナー』)、『Muriel's Wedding』(邦題『ミュリエルの結婚』)、『Truly, Madly, Deeply』(邦題『愛しい人が眠るまで』)など、各監督のデビュー作から構成されている。脚本執筆に始まり、資金調達、スタッフを含むキャスティング、撮影と編集、売り込みから上映まで、さまざまな裏話が読めるのは興味深い。そのなかで、新人監督が配給会社やプロデューサーにいかに作品を売り込むか、また制作過程や観客テストで味わう地獄など、映画業界のあらゆる実態もあらわにされていく。
インタビューしたのは、自ら2つの短編作品がある若手監督、スティーヴン・ローエンスタイン。デビューまでの苦労の記憶がそうさせるのか、映画監督がデビュー作や自分自身について、ここまでオープンに語った本はかつてない。各章はそれぞれの映画の回想録であると同時に、痛みと喜び、笑いと涙など、作品づくりの過程での思いをよみがえらせる、監督の感情の記録でもある。映画づくりを志す人なら誰でも、眠れない夜と爪をかむ日々が続く成功と敗北の物語に、わくわくしたり、ぞっとしたりするだろう。映画ファンたちには、いまや有名になった映画監督たちの魅力を伝えてくれる、楽しい読み物である。