メルヴィル・ファン待望のDVD化! メルヴィルの長編第1作にして抵抗と愛の傑作
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対独レジスタンス運動の中から生まれた抵抗文学であるヴェルコールの「海の沈黙」を「サムライ」等のフレンチ・ノワールで知られるジャン=ピエール・メルヴィルが見事に映像化した傑作(メルヴィルの長編第1作となる作品)。この作品は映画祭や岩波ホールでの上映でしか観ることができなかっただけに今回のDVD化はうれしい限り。
抵抗をテーマにした作品は数々あるが、叔父と姪の2人暮らしの家に宿泊することになったドイツ軍将校に対し沈黙によって抵抗する姿を描いたもの。いっけんドラマ性に欠けると思ってしまいがちだが、このドイツ人将校がドイツとフランスの文化の融合という理想を訴え、2人の心が揺れ動いていくという細かな表現が胸を打つ。
メルヴィルはヴェルコールの原作(岩波文庫で読むことができる)を忠実に再現しているが、2、3箇所独自の場面を加えている。1つは姪と将校の雪の中でのすれ違うシーン。このシーンでも「沈黙抵抗」を表現している(このシーンも美しい)。ドイツ人将校間でアウシュビッツにまつわる会話も挿入だろう。そして、極めつけはメルヴィル流のラスト。原作のラストもなかなかしびれるのだが、メルヴィルのラストも泣ける。私は今年(2010年)3月に念願かなって岩波ホールでこの作品を観たのだが、予想外のラストに思わず目頭が熱くなった。そして、周りの人たちの多くもハンカチで目を押さえていた。
メルヴィルが発掘したといわれる撮影のアンリ・ドカの映像は今観ても美しいし、姪を演じるニコル・ステファーヌ(メルヴィルの「恐るべき子供たち」にも出演)は魅力的。原作のラストにあたるシーンの彼女のクローズアップは何とも言えない美しさだった。撮影に使われた家はヴェルコールの実際の家ということらしいが、このようなことを思い巡らせながらこの作品を観るのも味わい深い。単なる「抵抗」だけでなく国を越えた人間の愛情も感じられる傑作だと思う。