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岡潔―数学の詩人 (岩波新書)

価格: ¥777
カテゴリ: 新書
ブランド: 岩波書店
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次世代の若者への贈り物 ★★★★★
本書には、ある強い特徴があるように思える。本書を次代の若者への贈り物としようする強い著者の意志を感ずるのだ。著者は本書を岡の評伝としてではなく、数学という学問に心を開きつつある若者への、数学への誘いとして著していると思われてならない。

例えば第1章の内容を見てみよう。そこには多くの頁を費やして、岡が終に解決出来なかった問題(内分岐領域でのHartogsの逆問題)の解説と、その問題に対して苦悶する岡の姿が描かれている。本書にあるように、岡は多変数代数函数論の建設を目指した。正にRiemannの後を追おうとしたのだ。しかし、計画はこの未解決の問題の前に挫折した。そう、岡の描いた理想は未だ道半ばなのである。著者は、この岡の辿った道の後を継ぐ若者の出現を心より切望しているのだろう。

確かに本書の中にある数学的内容を実際に追うのは困難なことだ。用語の詳しい説明も無い。殆どの方には意味不明な言葉の羅列になっているところが多いのではなかろうか。しかし、無謀な理想主義を承知で言うと、評者は現在の中高校生が本書を手に取ってくれたらと思う。そして岡の世界に興味を抱いたならば、背伸びでもよい、本書を足がかりに岡の数学の世界を実際に追いかけて、触れてみて欲しい。現在では、奈良女子大学の岡潔文庫がインターネット上に公開され、岡の全論文の邦訳に触れることができるのだ。さらに同じ岡潔文庫に公開されている岡の高弟である西野利雄による、これも心に染み入るような岡の作品への解題も、ぜひ本書と併せて味わって頂ければと思う。岡の思想も人生も、やはりその数学の中から汲み取るべきものだと評者は思う。

本書の若い読者の中から岡の残した理想を完成する者が現れ出ることを評者は祈らずにはいられない。
不思議な感動 ★★★★☆
 著名な数学者である岡潔の生涯を記述した本。

 著者は、「数学者、数学史家、専攻は多変数函数論と近代数学史、歌誌『風日』同人」と紹介されている。
 この本をよんでみると、この著者が著した岡潔伝らしく、次のような特徴が感じられる。
(1)著者は若いときから岡潔の著作に数学的影響を受けていることから、通り一遍の解説でなく、岡潔に対する深い敬愛の念がにじみ出ている。郷里であり、孤高の研究活動の場であった和歌山県紀見村の人々に話を聞き、岡潔の生活に想いをはせる部分などにそれがよく出ている。
(2)著者自ら数学者、数学史家であることから、数学的な解説部分もそれなりの分量が割かれている。ただ、この部分は数学の知識のない私には理解不能であり、飛ばし読みになった。欲を言えば、もう少し、素人にもわかる工夫があってもよかったかも。
(3)岡潔は情緒的な美しさと数学研究を一体不可分のものとしていただけに、著者が描く岡潔の生活の断片は詩的に美しい部分も多い。お日さまの光や蛍などを著した部分は、抑制のきいた文章でありながら、静かな感動が伝わってくる。

 少しとっつきにくい本と思われるので、すべての人に勧めません。じっくりとこの本につきあい、天才数学者の人生を感じ取ろうという人にとっては良書だと思います。
孤高の数学者の思索のあと ★★★★☆
日本が生んだ最高の数学者の一人、岡潔の伝記で、終始マイペースで多変数解析関数の研究にいそしんだその生涯を、残された資料から再構成する試みである。ただその叙述の仕方はよく言えば詩的、悪く言えばあまり組織だってなくて、ちょっと分かりにくいうらみがある。著者は数学者なので、通俗的な伝記と異なり、多変数関数論の研究に関するかなり専門的な記述が多い。一般の読者のために、もう少し数学的予備知識の説明をつけるべきではないだろうか。「多変数関数論のはじまり」という2ページの解説だけでは、なぜ多変数解析関数の正則領域の形が、一変数の解析関数の場合と異なり、任意のものにならないのか理解できないであろう。むつかしい数学の理論を提示しなくても、コーシーの積分定理が閉曲線に基づくことと、閉曲線は平面内にある場合と高次元空間内にある場合とではトポロジカルに本質的な違いがあることから、なんとか素人にも納得のいくような説明ができないものだろうか。
読むのにひと月かかりました。 ★★★★★
岡潔の生前を知る人を訪ね歩いたりする作業をフィールドワークと呼ぶことに深い意味を感じる。それは単なる調査ではなく、岡潔その人を深く知るために、不可欠な方法であったはずだ。岡潔を書いたものを通してしか知らない人には書けない、岡潔その人を浮かび上がらせる評伝。それは、知的に分析しすぎることで彼を切り刻んだりすることがない。そしてぴったりと寄り添い、「その人」を浮かび上がらせる。読み応えがあり、なかなか先に進ませないが、簡単に岡潔を分からせようとしない文章に、深い信頼感を覚える。簡単に判った気になるような、岡潔論に、私は傷ついていた。悲しい。でも、高瀬さんの本を読むと、それが癒される。自分と同じように感じている人がここにいると。読んでいる最中、大江健三郎が若い人に評伝を読むように勧める文章が朝日新聞に掲載されました。その文章に大いに共感しつつ、「岡潔―数学の詩人」も読み終えました。高瀬正仁さんの、読み終えることができなかった大部の評伝を、最後まで読んでみたいと思います。
数学と芸術と ★★★★★
 不勉強でお恥ずかしい限りだが、「岡潔」という名前も存じ上げなかったのだが、岩波新書のタイトルになるような人なのだから、どんな人なのだろうと思って手にしてみた。
 正直に言って数学の専門的な部分については自分の理解は及ばないが、その人間的な魅力というのは、様々なエピソードと高瀬氏の文体でじんじんと伝わってくる。今では冗談ではすまないかもしれない話もあるが、世の中全体が牧歌的だったのだろう。
 数学に縁のない人間からすると、数学というのは無味乾燥で形式的なものという錯覚に陥りがちだが、こういうスケールの大きい数学者に触れていると、そんなのは間違いであることがわかる。数学の営みは深い芸術性や人間性に通じるもので、またその逆もいえる。
 「文系」「理系」などという受験の都合でのカテゴリー分けもなんと罪深いものであろうかと思われてくる。