桂太郎は、内閣総理大臣を経験し、陸軍大将公爵従1位大勲位で、山縣有朋には及ばないものの位人臣を極めたといっていい人物なのですが、明治に活躍した人物の中でも、大久保利通らの第1世代、山縣有朋や伊藤博文らの第2世代に次ぐ第3世代であり、政治においては先輩たちの陰に隠れがちです。また、桂の同世代乃木希典、東郷平八郎は日露戦争の英雄になったのに対して、桂は総理大臣として重責を担ったものの軍人として活躍したわけではありません。そんな桂の人となりを描いたのがこの小説です。特に幕末や近代軍制導入における若き日の活躍は、重要なわりにあまり知られていない(私のごときものにとって)と思うので、貴重な1冊だと思います。好き嫌いがあるでしょうが、山口県人として郷土の先輩、温かく描く例の古川節です。
難をいえば、記述のバランスが悪いように思います。特に、桂は全く活躍しない旅順攻略が長々と描かれるあたりでしょうか。ただ、推察するに、司馬遼太郎『坂の上の雲』の影響もあって「乃木希典愚将説」が蔓延しているので、それに対する反論をここで言っておきたいということでしょうか。蛇足ですが、兵頭二十八氏『武侠都市宣言!』で、旅順攻略は同時代の諸外国の例と比べれば「世界に誇るべき」作戦であると評しています。