再分配の ために税金 どうするか
★★★★☆
1.内容
題名は「消費税をどうするか」だが、消費税を含めた税制を、再分配強化のためにどうすべきかを、著者の豊富な取材経験などに基づいて書いた本である。折からの経済危機で、財政赤字がクローズアップされているが、財政だけでなく社会保障も危機に瀕しているので、社会保障をどうするかの議論が欠かせないことをまずは提示し、第2章と第3章で、主に自由民主党下の失政を指摘し、第4章で日本の貧困化を論じ(だから社会保障の充実が必要だと言うこと)、第5章で欧米の税制改革を概観し、第6章で税制をどのようにし、どこに配分すべきかを論じている。
2.評価
長所としては、自由民主党の失政を正当に指摘していること、欧米では消費税も高いが、所得税の増税が議論されていることを指摘したところである。ただ、個人的見解で申し訳ないが、著者の展開には疑問が結構あったので、星1つ減らして、星4つ。例えば、公共事業について、評価が揺れ動いている。例えば、法人税減税を主張しているが、同じ岩波新書の、宮本太郎『生活保障 排除しない社会へ』で指摘しているような(日本の企業の社会保険料負担は、欧米に比べて重くはない、というのが要旨)、社会保険料についての調査が不足している。例えば、年金税方式を反対するのはいいが、おそらく消費税より逆進性が強いと思われる保険料制度の批判が足りない(負担料が同じだから。それを是正する場合にコストはかからないのだろうか?法人については、社会保険料を負担しないのだから、法人税でよい。もっとも、税方式の年金制度を導入している国は少ない)。
ひどいもんだ
★☆☆☆☆
これまでの政策の揚げ足を散々取ったあげくに、著者の主張を一言でいえば、「消費税上げは数%あげて社会保障に使い、公共事業を半額にして、防衛費に切り込むことで財政削減をやりましょう」ということだけらしい。
法人税は引き上げようのないことは、しぶしぶ認め、個人所得税の累進性を高めることは強く主張しているのであるから(これはこれで、まともな主張だが)、せめて、どの程度の財源効果があるかを示さないと、言っていることに根拠があるのかどうかも分からない。
政府のシミュレーションにはケチをつける割に(つけること自体が悪いのではないが)、自分の主張には全く裏付けとなる数字がないというのは、「単なるエッセイ」ということなのか。
せめて、公共事業を半額にして、防衛費に大きく切り込んでも(「半減」という言葉も2か所ある)、日本という国が成り立っていくことは示すべきだろう。
定年間際「勝ち組」の朝日新聞の記者の戯言だとしても、罪が重い。
あなたの世代のつけを払わされる世代の気持にもなってほしい。
財務省や経団連よりでなく消費税を考えてみるとこうなる
★★★★☆
著者は朝日新聞の論説主幹の方でかつては財務省も担当し、「経済構造改革」という本も書いている。
新聞社の方だけにデータが豊富で消費税導入とその後にどういうことが何時あったのかがよくわかる。
日本における消費税を振り返ってみるときに有益な内容となっている。
構成は次の通り。
はじめに
第1章 世界経済危機を救う財政
第2章 赤字は誰の責任か
第3章 消費税の歴史が映すもの
第4章 貧困と格差をなくすには 所得再分配復活への道
第5章 欧米の税・財政に何を学ぶか
第6章 危機を超える税制改革のために
おわりに
消費税引き上げ絶対反対の立場ではないが、経団連の法人負担を減少させてその分を消費税という考えを
批判し、財務省やこれまでの政府により「もう消費税しかない」という単純な議論に対しても異論を唱えて
いる。
政治論や感情論でない消費税論議をする際には欠かせない文献となるのではないか。