保坂氏の作品にはいつも、氏ならではの静謐な不思議な空気が漂っているのですが、この作品もそうした味でいっぱいです。猫との交流が生活の中心となっている三人組の世界には、他の人物はあまり出てきません。そのミニマリスティックな箱庭のような世界観は、はからずも現代の都会における生の在り方をとらえているように思います。「現代という時代に育った者にとって、プライバシーというものは守ることより侵すことの方がずっと難しいのだとぼくは思う」、と本文中にありますが、そんな他者との距離感が静かな諦めとして伝わってきます。
所収のもう一篇、「キャットナップ」も猫をめぐっての人間関係を淡々とした筆致で描いた作品。