ミシェル・エーケム・モンテニュー(1532-1592)の生きた時代は、カトリックとプロテスタントの対立が激化し、国を巻き込んでの宗教戦争に突入した時代である。いち商人から2代かけて帯剣貴族になった父親を持ち、西南フランスギュイエンヌ地域のモンテニュー村の城館に生まれたミシェルの、これは伝記小説である。とはいっても、私はモンテニューその人をほとんど知らない。もちろん『随想緑』は読んだ事も無い。ならば、なぜこの本を紐解いたかというと堀田善衛の作品だからである。彼が書く以上、現代日本に住む私になんらかの刺激を与えるだろうという期待があるからである。正直なところ、第1部を読んだ限りではまだ分からない。しかし面白い。
堀田善衛の意識はまるで16世紀のフランスに実際に居るかのように自由に漂う。文章は評伝のようであって、実はそうではない。論文ではない。堀田善衛が見て語った世紀のパリの街そのものであり、堀田が読みこなしていったミシェルの著作や、当時の知識人の著作そのものなのだ。よって読者である我々も堀田を旅先案内人にして16世紀のフランスを旅して回ることができるのである。なかなか楽しい。
世は争乱の時代である。ミシェルとて、時代が要請する決断の時をやがて迫られるであろう。第2部に至り、「われわれのミシェル」は思想家として羽ばたくだろう。そのとき彼はどういう決断をするのだろう。今から楽しみだ。