彼女は1903年、東京駒込の観潮楼で生まれてからのち、
父鴎外の愛情を一身にうけていた、というのは周知の事実だったそうです。
その、鴎外への尽きせぬ思いを茉莉はつづっていた、というのです。
この「父の帽子」のなかで現れる鴎外は、本当に茉莉さんにメロメロなのです。
そして、茉莉さんも父親にメロメロなのでした。
まるで、恋人のような。
茉莉さんは父親の勧めで17歳で結婚され、二男をもうけますが
まもなく離婚、二度の結婚は二度とも失敗しているのです。
それは、密かに鴎外という「理想の男性」を見てしまったから、ではないだろうか
そんな気さえしてしまう。
「よし、よし、おまりは上等よ」
ここまで溺愛を受けたのは、他の兄弟たちのなかでも茉莉さんだけだったのかもしれません。
彼女は両親の様子を書き綴っているのですが、
ふたりを思い、そのふたりに愛された幼少のころの思い出で十分生きているような
そんなおばあさんだったのかもしれない。
母志けさん、という方はとても気性の激しい女性だったといいます。
悪妻、といわれたこともあったけれど
ただ、必死に父を愛していたのだ、と
「舞姫」の豊太郎を愛したエリスのように・・・
わたしもファザコン気味なところがあるので
父の背中、というものにいつも頼ってしまう
茉莉さんのお父さんのように、有名人ではありませんが・・・
今頃、茉莉さんは天国で、父親に甘えているのでしょうか。
そんなことに思いを馳せて、すこしにっこりしてしまうのです。