恐るべし藤沢周平…!!
★★★★★
以前、山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』を観て、“いい映画だなあ…“と感嘆して、それから藤沢周平先生の作品に興味を持つようになりました。
“『たそがれ清兵衛』は、監督も凄い人だし、アカデミー賞にもノミネートされた程なのだから、まあ、それよりも少しは落ちる程度かな?”と思いながら観たのだけれども、予想に反して?…実に見事な素晴らしい作品でした。
この作品を観ると、自分が日本人であるという事実を、否が応でも思い知らされます。物語中、百姓は武士に対して、地べたに這いつくばるようにして頭を下げます。武士は忠君である殿様に対して、畳が擦り切れる程に、額を押し付けて土下座をします。
江戸時代、東北地方の貧しい藩の、強い封建制のヒエラルキーに押しつぶされ・苦しみ・歪みながらも、それでも、家族や愛する人を守る為に、小さな命をつなぐ為に、日々の小さな幸せを紡ぎながら、人は静かに生き続けます。
寡黙な主人公・兼見三左エ門を演じる豊川悦司は、実に素晴らしかったです。この人は背中で演技の出来る人だなと感じました。往年の高倉健さんを髣髴ともさせました。
対する吉川晃司の演技は、相も変わらず下手糞です。この人の台詞回しには、妙なイントネーションがあって、まるで、歌舞伎役者の様です。しかも、本人はそれを上手なのだと勘違いしている節が有ります。けれども後半になって、何故、この人が配役になったのかが至極納得も出来ました。
三左エ門の義理の姪・里尾を演じる池脇千鶴も渾身の演技でした。ただ一部、もっと演技に溜めが欲しいなと思う部分が有りました。
物語早々、藩主の妾・連子を殺傷するシーンは、実にあっけ無く、大した出血も有りません。それが、ラストでは、残酷な程に、これでもかこれでもかと、殺陣シーンが続きます。
その残酷さは多分、生きることの残酷さなのでしょう。捨てようとした命が拾われて、生きようとした時に、その命は利用されて奪われる。封建制のヒエラルキーの中で、無様に・実直に・慎ましく生き続け、そして殺される。
我々日本人の宿命を、外国の人達が観たら、何と思うのでしょうか?「ナンセンス!」でしょうか?それとも「共感」でしょうか?それとも「同情」でしょうか?
時代劇の名を借りてはいるけれども、日本人の中に連綿と続く、実は極めて現代的な問題を内包している作品です。それは多分、藤沢周平先生の作品全体に流れているテーマのひとつなのだとも思います。だからこそ、そこに藤沢作品の持つ普遍的な魅力が有るのです。
本当に、奥の深い日本映画を観た余韻に溢れた作品でした。