ずるいなあ
★★★★★
小説ネタとしての面白い素材を、全部ぶちこんでしまったような話。
大人なら男女を問わず楽しめる現代お伽噺にもしてしまっていて、
ずるいずるいと思いながら、一気に最後まで。
手練手管にはめられてのお楽しみ夏休み用読書となってしまった。
引用の井上靖の「乾河道」の詩の最後の<…人間の生涯のなんと短き、わが不逞、わが反抗のなんと脆弱なる!>も
はじめとおわりに出して、スパイスの仕上げも上々
サービス精神旺盛なる小説である。
小説の醍醐味
★★★★★
「三千」という言葉に魅せられてこの本を手に取った。ページをめくり「和歌山県」という文字に背中を押され、買った。そんな動機で読み始めた。「桜の木の根元にメープルリーフ金貨を埋めた……場所は和歌山県。みつけたら、あんたにあげるよ。」そういって始まる物語。ちょっとミステリアスな出だしだ。
読み始めると、斉木がタクラマカン砂漠周辺の旅の様子を語っていた。四方に広がる天山山脈の峰々の間の危険な道、様々な民族の小集落、そこで生まれ、生き、死ぬ。そこには恋、争い、家族愛、嫉妬、策謀、裏切りがあり、つつましく生涯を終える者もいれば、待望を抱いて都をめざす者もいたであろう……と。そこに来た途端、不思議な思いに駆られた。
それら風景は自分の心の中にスッポリ納まっているものなのではないだろうかと。灼熱のような猛暑も、乾ききった喉を潤すオアシスも、蜃気楼のような青年も、ゴビ灘、乾河道、沙竜といった自然現象も、すべて自分の心の投影が現実の風景なのかもしれい……。そういう見方で読むと、物語の味が変わってくる。読み手の心一つで、小説の内容が変わるから不思議だ。
それに、自分の知らない話や地名、ヴーヴ・クリコ・ポンサルダンという名のシャンパンの由来、ヘミングウェイのダイキリ(説明はないが)のような逸話を知るにつけ、それらに線を引いたりチェックすれば、ひょっとしたら三千になるかもしれない。いや、それ以上かもしれない。読み手が見つける金貨の正体はそれかもしれない……。
そんな思いが著者と読み手との間に駆け引きを起こさせ、胸を膨らませてゆく。逸る心を抑えながらも、今、下巻に手を伸ばそうとしている自分に気づく。
待望の新作
★★★★★
前作「骸骨ビルの庭」から一年、待望の新作が出ました。 いつの間にか第一版を買うようになってしまいました。
宮元輝 文学というのは、人間が生きている、”宿業”(と表現していた作品がありました)を抱えながら生きている、人が生きていくうえで、人と人のつながりが描かれている、・・・
読んでいて生きていく力強さをもらえる作品に、いつも感動します。
人に勧めて皆さんからの意見も、裏切られること無い感想を頂くのも、宮元文学ですね。
で、この作品は、・・ 海外ロケ?されたと思います。 宮元作品の海外ロケバージョンを読むと、いつかはその地へいってきたくなりますね。 この先は、是非手にとって読んでください。