時空間の旅
★★★★☆
桑原武夫学芸賞を受賞したという一報に触れ,本書を手に取ってみた.本書は「風の旅人」という雑誌に,5年間に渡って連載された旅や人生をめぐるエッセイをまとめた本となっている.
「今,ここからすべての場所へ」という書名が示す通り,「住み慣れた場所」から「旅で訪れた場所」という空間的な移動,「現在」から「過去」または「未来」への時間的な移動が主題となっている.それに伴って,人生観や世界観といった物事に対する考え方の変遷も扱っていると思われる.本書では時空間を旅することの意義や重要性について語っている.
本書の文章を読むと,著者がクオリアを研究対象としているということからか,著者は非常に感受性が豊かで,様々な人・物・場所から,影響を受けていることが窺える.著者が好きな一回性,セレンディピティ,偶有性という言葉も,本書のキーワードとして出現している.茂木健一郎氏が文才豊かな表現者であることが再認識できる作品となっている.