面白い!
★★★★★
私のように、ほんの少し茶道に踏み込んだぐらいの人でも、充分に楽しめるフィクションです。
初めて読む作家さんだったので、取り合えず(上)を読んでみただだけですが、(下)を今から直ぐに注文します!!!
著者はお茶の世界を良く研究している、と感じました。以前、TVドラマで同じように時期家元になるべき若者が家を出る話を市川染五郎主演で見たことがあり、少々重なりましたが、あちらがファッション界へ就職し、恋愛を中心に描かれているのに対し、こちらはもっとお茶の世界、京都の風習などに重点を置き、内容はかなり違います。
私の前にレビューを書いていらっしゃる方達の言葉通り、サラッと読めますし、お茶を知らない方は、きっと興味を膨らませる事でしょう。
主人公が反発していたお茶の世界、弓道、武道に知らず知らず助けられ、自分を家元の長男とは知らずにいる諸先輩男性達のお茶に対する思いを垣間見て、全く自分と違う見方、感じ方があるという事を知りはじめる・・・、(上)はまだそんなところでしょうか。(下)で、彼がどう成長するか、とても楽しみです。
バンドを組みたいと決めて髪を青く染めても、今時の格好にぶっきらぼうで乱暴な話し方をしても、幼少からきちんとしつけられている彼の動作は、箸の持ち方一つでも見る人が見れば解ってしまう。好むと好まざるとに関わらず、毎日精進していれば所作も身についていくものなのだなぁ・・・、私も頑張らなくては!!
面白くて一気に読んだ。
★★★★★
お茶の世界。お茶といえば、お菓子を食べて抹茶を飲むことしか考えたことがなかったけれど。どのようにして客人をもてなすのか、器も飾る花も掛ける軸もこんなふうにこまやかに心をこめて選ぶのかと思うと、ただ形式ばった堅苦しいもののように思っていた世界が実に魅力的に輝き始めた。
主人公はとんでもない若者だけど、これは下巻に向けてどう成長してゆくかが楽しみなところ。他の登場人物もみんななかなかにユニークでいい。
そして、京言葉のひびきもいい。思わず会話を声に出して読みたくなった。
さらさらと読めて、おもしろい。
★★★☆☆
やはり読書をしていてよかったなぁと感じるのは、知らない世界を知ったときである。手っ取り早いといっちゃあ語弊があるが、未知の分野の道理を体験するという上で読書ほど簡潔に簡易に理解できる手段はないなあと思ってしまうのである。で、本書でどういう世界に触れることができたかというと、タイトルからも推察できるように『茶道』なのである。あんな抹茶を泡立てた苦い茶を飲んでなにが良いんだろうとつねづね思っていたのだが、この茶道というものの仕組みや心はとても奥深いものだったのだ。茶室という空間を軸や花や茶道具の組み合わせによって演出し、季節や風景までもを一緒に愉しむ。ある意味語呂合わせ的な諧謔味や、古典世界の風雅を取り込み心を浄化する。なんと、日本的で優雅な世界なんだろう。戦国武将たちがこぞって茶の道を愛したのも、その心が武士道と通じるものがあるからなのだ。
とまあ、茶道のことはこれくらいにして本書なのである。本書はその茶道の家元の長男が家を継ぐのに反抗して出奔してしまうところから幕をあける。友衛遊馬、18歳。何をやりたいかも定まらず、ただ若さゆえの無知から家を出て、あろうことか茶道の本場である京都に向かうことになる。いってみれば、本書はよくできたドラマであり、個性豊かな登場人物が数多く出演し、笑いあり少しシリアスありで緩急ついて大団円にたどりつくという安定したエンターテイメントに仕上がっている。それが御都合主義的な展開にならず、前半で張られた伏線が後になって効果的に現れたり、サブ・ストーリーに溜飲の下がるおもいをしたりと非常にすぐれた演出がほどこされている。しかし問題もあって、まずこの主人公遊馬の性格が鼻についてしまう。茶道の家元の長男という、ぼんぼん育ちが嫌なほうに作用しているのだ。これは後半には改善されていくのだが、どうも身勝手すぎて好きになれなかった。あとラストの結び部分も少しインパクトに欠けると思う。だが、本書は茶道を舞台にした異色の青春物として記憶に残る作品と成り得ている。上下巻だが、非常に読みやすく、すぐ読めてしまう。もし興味をもたれた方がおられれば、ご一読をオススメする次第である。