哲学的考察から臨床のヒントにも
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本書は斬新な精神分析理論を提唱するストロロウの最新刊であると同時に、自らのトラウマ体験を赤裸々に語り、さらにそれを旧来の精神分析の枠組みを超えて、哲学的な考察を加えたものである。
それだけでも、精神分析理論を深く考える上で、新たな選択肢を与えてくれるとともに、臨床のヒントも与えてくれる。
それ以上に、本書の中で、訳者とストロロウの対話が収載されているが、そこでも強調されているように、患者の心を決めつけて、患者のトラウマをさらに深くしてはならないというのは、日本の臨床家にこそ、心に深く刻んでほしいものだ。
たとえば、211reefcourtsbと称する人が本書を書評しているが、おそろしいことに翻訳者の名前を見ただけで、本書も読まずに書評していると堂々と書いている。この人がほかに書評している本を見ても『精神療法』の購読者ということを鑑みても、精神科医か臨床心理士なのだろうが、このような決めつけを当たり前にやる人が、日本で人の心の治療を行っている現状から類推すると、本書は日本の多くの心理療法家にとって必読の書と言える。211reefcourtsb氏は丸田先生が辛口のコメントを載せていることを本書の批判の根拠としているが、丸田先生にしても、アメリカの名門大学の精神科の教授の経歴はあっても、当地で精神分析のインスティテュートにすら入っていなかった。肩書きでしかものを考えないことも、心理職であってはならないことだ。いっぽう、日本で二人目のアメリカで正式の精神分析家の資格を得た岡野憲一郎先生は、本書を『精神分析研究』で絶賛していた。211reefcourtsb氏が「彼の自己愛精神構造ではストロロウの訳がきちんとできるとは思えません」と称した本書の訳者の和田氏は、日本人の精神科医で唯一、自己心理学の国際学会で口演し、自己心理学の国際年鑑に論文を載せていることも付記しておきたい。患者の心を理屈で決めつけるタイプの精神療法家には☆一つの内容だろうが、患者のことを思い、柔軟な精神療法を心がける精神療法家には☆五つの内容といえる。