ずばり言えば、人気絶頂の御三家(橋・舟木・西郷)のヒット曲がそっくりそのまま抜け落ちている。星の数ほどあるこの年の彼らのヒット曲を一曲も入れていないというのは、選考者のセンス、バランス感覚を疑わざるを得ない。
レコ-ドの売れ行きを参考にした?それならベスト10に彼らの歌がまちがいなく5曲は入るでしょう。人気度を参考?それなら確実にベスト3に入るでしょう。どんな弁明も通用しない。それとも、たちの悪い冗談でしょうか。
ポップス系の視点からいくと、空前のエレキ・ブームはあったものの、歌謡曲のフィールドでそれ系統の音を取り入れ、しかもヒットに結び付けることにこの時点で成功していたのは橋幸夫、西郷輝彦ぐらいで(残念ながら、ここには未収録。そういえばこのアルバム、いわゆる御三家〔橋・舟木・西郷〕の歌が1曲も入ってない…)、「悲しき願い」などのヒットはあったもののカヴァー・ポップス自体もはや下火となり、ユーロ系に活路を求めようとし(ここでの個人的イチ押しは伊東ゆかりの「恋する瞳」。当然、ミコちゃんんもかなりよいですが…)、ビートルズの来日を契機として一気に盛り上がることになるグループ・サウンズ群も、まだ表舞台には登場していない……という(「悲しき願い」のバッキングはブルー・コメッツが担当している)、きわめて地味で混沌としていて、しかしそれゆえ独特の味わいが出ている時期だと言うことができそうだ。
居間にはまず確実にラジオが置いてあり、テレビはモノクロで14型ぐらいの、画面の角が丸いやつを、家族で揃って……、という『かたち』が成り立っていた時期のヒット曲集として、とりあえず、気楽に聴いていただきたい。
倍賞智恵子の「なにも言わないでちょうだい。黙ってただ踊りましょ。だって“さよなら”はつらい。ダンスの後にしてネ...」の歌詞も懐かしい「さよならはダンスの後に」や、最近三沢あけみが歌ってる「松の木ばかりがマツぢゃない、時計を見ながらただひとり...」の節回しがステキな「まつのき小唄」。さらにさらに「アイドルを探せ」や「夢みるシャンソン人形」、「砂に消えた涙」なんてカバー曲も収録されてますヨ。これは皆さん買いでしょう。