大胆なパノラマ地図を描き続けた吉田初三郎 その鳥瞰図の作成の背景に迫った好著
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近年富にその業績を再評価しようという機運が高まっている鳥瞰図絵師の吉田初三郎の残した作品を通して、対象物をどのように描こうとしたかを分かりやすく丁寧に解説した労作です。
本書の出版で、吉田初三郎の生み出した独特の鳥瞰図の世界に関心を持つ読者も出ることを思うと、本書の価値は図り知れません。特に、全作品を貫いている普通の地図の感覚とは全く違う「大胆なデフォルメ」は芸術作品としての魅力も併せ持っています。本書の図版のほとんどはカラーですし、掲載されている鳥瞰図もかなりの数に上ります。それでも生涯に3000点以上描き上げたと言われているその全貌を考えると気が遠くなりますが。
実際本書で吉田初三郎の鳥瞰図を見ないとその素晴らしさは理解できないと思いますが、参考までに、本書の章だてを載せます。
第1章 吉田初三郎とその作品(吉田初三郎の生涯、「初三郎式鳥瞰図」、「印刷折本」という複製技術)
第2章 「旅行」の風景(「旅行」の誕生、『日本交通鳥瞰図』、『鉄道旅行案内』)
第3章 「田園」の風景(描かれた「聖跡」、描かれた「日本八景」、「郊外」の描かれ方、「山水」の描かれ方)
第4章 「都市」の風景(視点場の変容、「地方都市」の風景、都市の描かれ方)
第5章 描かれた近代日本の風景(「道中図」の系譜、「俯瞰図」の系譜、「郷土」の輪郭)
なお、著者の堀田典裕氏は、執筆時名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻助教で、博士(工学)を取得している方です。専門は建築・都市の歴史・意匠とのこと。