幽霊譚コンピレーション
★★★★☆
あえて直球勝負の幽霊譚を多く投入した、と巻末で著者の松村氏が明かしているように、この本は一種の幽霊譚コンピレーションともいえる内容となっている。例えるなら、シングルヒット曲ばかりを集めたと言うよりも、程々のインターバルも挿入した、最後まで読ませるアルバム曲の感じに近い、そんな構成のもとで作られた怪談集である。
そして直球勝負という縛りの中で展開される数々の話だが、よくぞここまでバリエーションがあるものだと唸らされる。我が身に起こったらきっと同じ行動をしてしまうだろう「二一〇九」や、怪異と笑いが紙一重で迫ってくる「アザッス」「おかん」があるかと思えば「五穴」のような強烈な禍々しさを持った作品まで、実に幅広く書き分けられている。「喫煙の効用」も、出てくる人物の喋りや対応が面白く、それらが怪異を引き立たせる佳作である。
最後に登場する「何もいない」は切なさと悲しさを併せ持った作品である。スケールとしては決して大きくない話ではあるのだが、どこにでも起こりえるかもしれない日常の怪異と描かれたビジュアルのインパクト、そして人物の心理が重なることで、短いながらもラストにふさわしい作品となっている。同時にこの作品集を締めくくるという役目を引き受けているところが心憎い演出である。