どうせなら全曲盤を
★★☆☆☆
このヤルヴィによる「組曲」は、基本的に全曲盤からの抜粋である。「全曲盤」の演奏は「全曲」としての流れの中で独特の味わいを持つ演奏であり、それを切り貼りして組曲版の順序に並べ替えても、何か物足りない感が残る。はじめから組曲版として演奏されていれば、もっとたっぷり旋律を歌わせるなどして、「組曲」としての盛り上げ方を意識した演奏もありえただろうとも思う。その意味で、はじめから「組曲」として演奏されたものとしてはこれまでに多数優秀な演奏が録音されているのであり、「組曲」でよいというのなら何もヤルヴィ盤でなくてもと思うのだ。ヤルヴィの「全曲盤」には、本当の「全曲盤」でしか味わえない魅力がたっぷりある。しかも、その「全曲盤」には『シグール』の全曲版も併録されている。だから、せっかくなら全曲盤をおすすめしたい。『ホルベアの時代から』については、『弦楽オーケストラのための作品集』というCDに収録されており、そちらを薦めたい。というのも、そこに収録されているグリーグの弦楽合奏曲をまとめて聴くと、なんともいえない味わいがあるからだ。
この曲のベスト盤として知られる、繊細、精緻なヤルヴィの「ペール・ギュント」
★★★★☆
ネーメ・ヤルヴィ指揮エーテボリ響の「ペール・ギュント」は、この曲のベスト盤として定評があり、カタログを見ると、この組曲盤の外に、26曲を納めた全曲盤が、2種類発売されているくらいなのである。私は、全曲盤は持っていないのだが、組曲盤や、12曲を収録したバルビローリ指揮ハレ管の抜粋盤にも、今一つの曲が入っているくらいなので、この曲の鑑賞には、組曲盤や抜粋盤があれば十分だと思う。
ヤルヴィの演奏は、同じくこの曲の代表的名盤として知られるバルビローリの演奏とは対照的で、劇的で濃厚なロマン漂うバルビローリに対し、繊細、精緻な表現が際立った音楽作りが特徴であり、どちらの演奏を取るかは、好みの分かれるところだろう。ただし、カタログを見ると、バルビローリ盤は、現在、廃盤となっているようだ。
ところで、このCDの演奏データをよくよく見てみると、1〜3と5,7が1987年録音、4,6,8が1992年録音となっている。もちろん、全曲を通して聴いても、聴感上は、全く違和感はないのだが、この曲のベスト盤とされているのは1987年録音の全曲盤であり、なぜ、演奏に傷があるとも思えない4,6,8を差し替え、継ぎはぎ演奏のCDにしたのかという疑問は感じる。
意外な掘り出し物だったのが、併録の組曲「十字軍の兵士シグール」だ。珍しい曲で、私も初めて聴いたのだが、これが、なかなか良い曲で、カタログを見ると、あのカラヤンまでもが録音しているのだ。特に、第3曲「忠誠行進曲」がメリハリ豊かな名曲で、この曲でのヤルヴィは、「ペール・ギュント」とは対照的に、ダイナミックで、迫力十分な演奏を繰り広げている。