平和学の「導入書」は決して多いとは言えないなかでも、本書はその「導入書」としては適切なもののひとつではないだろうか。それというのも、本書の網羅的な内容によるものも大きいが、個々にみるならば、その歴史的、政策提言的な側面も見逃すことはできない。また、本書最終部分には用語解説も付されているので、本書の中で注を付されたものについては参考になる。
ただ、残念なのは、何も本書に限ったことではないが、ここでは二点ほどあげておく。まずひとつは、その網羅さゆえに各テーマにしろ、その記述が必ずしも十分な理解を得るほどの説明を行っていない点である。そのため、ただ、あれもこれも扱っているので、一見するとよさそうに見えてしまうが、その中身をよくみてみると不十分な点に気づかされてしまう。もう二点目は分担執筆ということもあり、視点・視座の共通点が見えにくいこともあげられるだろう。これは「テキスト」としての利用を目的としているのなら、大変重要な問題であろう。もちろん、その執筆者の見方は尊重されるべきにしても、それでも、一冊のテキストとして、その共通の視点・視座ではないために全体の通しての姿勢がぼやけてしまっている点である。そのため星は三つ。
さて、とは言うものの、そのことは平和学に「初めて出会う」人を対象としたテキストとしての本書の意義を何ら否定するものではない。むしろ、読者は批判的に読み、捉え、そして考えるための力を養うために本書を手にし、それぞれの興味関心をさらに一層高めていくその材料として本書を捉えればいいだろう。