アフリカ系アメリカ人の魂の叫びを描いたピュリッツァー賞受賞作
★★★★☆
本書は、’93年、アフリカ系アメリカ人の女性作家として初のノーベル文学賞を受賞したトニ・モリスンの、その契機となった代表作で、’88年度のピュリッツァー賞を受賞している。また、≪ニューヨーク・タイムズ・ブックレビュー≫が選んだ過去25年のベスト・ノヴェル第1位にもなった、まさに20世紀文学の最高傑作ともいえるすごい作品である。
一貫したストーリーではなく、19世紀後半のアフリカ系アメリカ人の家族、セサとその母親ベビー・サッグスや娘のデンヴァー、知り合いのポールD、そして彼岸から甦ってきたセサの娘ビラヴドの、過去の奴隷時代の苦しい生活の回顧やそれぞれの独白から成り立っている。
純文学というと堅苦しい感じがするが、文章そのものは比較的スラスラと読み進むことができる。しかし我々単一民族の日本人にとって、モリスンのアフリカ系アメリカ人の悲劇というか社会での耐え難い記憶との苦悩に満ちた闘いを理解するのはいささか難解だった。
しかし、デンヴァーやビラヴドの「愛されたい」との切実な想い、失われた愛の可能性を取り戻すための声は痛いほど伝わってくる。思えばビラヴドとは“愛されし者”という意味である。死んだ娘と同じ名前の女性が現れるのは、いかにも象徴的である。
本書は、一種の神秘的な神話小説であったり、先祖たちへの鎮魂歌であったり、現代のアメリカ社会に対するアフリカ系アメリカ人の差別の歴史をふりかえさせる訴えであったりと、いろんな読み方ができるが、彼らの魂の叫びをヴィヴィットに縷々綴った作品であるといえるだろう。