モノから考える男社会
★★★★☆
『「モノと女」の戦後史』と双対をなす作品、のはずが、論としての出来も本としてのおもしろも、だいぶ劣るのではないか。「女」では、洗濯機や生理用品といったモノの出現/普及が女性の社会生活や意識の変化と密接にかかわっていた、という事実を鮮やかに描きだしていて見事だったが、本作がとりあげるカツラやスーツ等については、その歴史的な変遷の過程を知るのはそれなりに興味ぶかいにせよ、社会や心性の劇的な転換とは結びつきにくいように思えた。また、本書の主な著者である石谷氏の書き方が、なんというか、ひとりよがりな感じで、「戦後史」と題しているのに個々のモノの前近代における状態を詳しく述べたり、自分の価値観を思い切り前面に出しながらオヤジの説教的に各章をまとめたりするなど、あまり良い印象をうけなかった。
とはいえ、天野氏の執筆パートを中心として、色々と有益な知見を得られるのも確かである。書斎というモノが、特権階級の男性にとっての神聖な空間であった時代から、戦後における住居の女コドモ化をうけ全体的に減退していった時期をへて、昨今では男性が「夫」や「父」や「社員」といった役割から自由になるための「逃げ場」となっている、とか、会社でのランチが、弁当の持参という「家庭」とのつながりにあった初期の段階から、各社での社員食堂の導入にともない「企業」という「家」とのつながりの重視へと向かい、また外食産業の発展によりさらに拡散していった、等々、なるほど、と思わせられる。社章というモノが、高度経済成長期を頂点として、会社人である男たちの社会的名誉や差別化の手段として重宝され誇示されていたという今ではやや違和感のある過去の事実への注目からも、学ぶところが多かった。
クルマやカメラなど、もっと「男のモノ」として論じるべき対象があったのではないか、と感じなくもないが、ともかく、モノを通して社会を考える、という本シリーズの魅力はなんとか健在であるように思われた。