美しい文体と思想性、心に残る文学です!
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アナトール・フランスのデビュー作にして代表作がこれ。アナトール・フランスの文学は、原書で読むと特によく分かるが、文体が美しいことで知られ、その代名詞的存在でもある。
さてこの作品はと言うと、主人公の老人はフランスの古文書学校出身(ちなみに思想家・バタイユもこの大学校の出身)で、学士院会員と言う超エリート(余談ですが、「エリート」はフランス語です)。この老学者、今迄の人生を本の中にしか生きてこなかったが、年老いて色々なことに遭遇する羽目になり、外の社会とも交わりだす。そしてそこから、「象牙の塔」に籠る事への懐疑が生じてくる・・・。
精神的生活vs実人生という、ドイツやフランスの哲学に見られる「主知主義への懐疑の文学」と言えるだろう。そういった思想の先鞭を付けた代表者の一人でもある、あのうるさ方のニーチェが高く評価した文学者の一人がこのA・フランスだが、彼がそのニーチェと同じ年の生まれ(1844年)と言うのも面白い。
そもそもA・フランスはパリの古本屋に生まれ、パリ的なエスプリと古典学・文学のセンスを身に付けた人だから、彼の文学はある意味で芸術の域である!彼の文学は全般的によくイギリス文学等に見られる様な甘っちょろさは全く無いし、とりわけこの本は面白さ・文体の美しさ(この日本語訳も上手く、それが伝わってくるし、原書と読み比べてもあまり違和感は無いと思った)・思想性・ある意味での普遍的テーマ性という点で、彼の代表作であると言うのみならず、これからも高く評価され続けるべき作品ではないだろうか。