訳が良ければさらに良し
★★★★☆
デザイン主導の(あるいは触発された)イノベーションに関する書。
本書の目的は、“はじめに”から引用すると次の通り。
「本書を著した目的は、物質文化の世の中にあって、アートやデザイン、
イノベーションのコミュニティ同士が合流し、また影響し合うことを
通じて卓越した新製品を作り出すことにある。」
最近、競争戦略上あるいはイノベーションにおいて、デザインの重要性
が強調されることが多くなりましたが、同種の本や論文と比べた際の
本書の特徴は、以下の4つ。
・デザインファームの実態や機能、あるいは創造性やイノベーションに
デザインファームが果たすべき役割などについて多くの紙数が割かれ
ている。
・企業・ユーザー・デザイナーやデザインファームなどのコミュニティ
やネットワーク、あるいは集積したエリアなど、デザイン産業クラス
ター論としての側面を持つ。
・「そもそもデザインとは何か」といった根本的で奥深い問いに対する
様々な企業トップ・デザイナー・学者のコメントが数多く掲載されて
いる。
・ヨーロッパの事例が多い。
ちょっと残念なのは訳が今ひとつな点。
22名も訳者がいて、訳文全体の統一性をとるだけでも大変だったの
でしょう。
訳者の一貫したポリシーのようなものが感じられず、何というか
読み続けるのに努力を要しました。
紙面の構成やフォントなども、もう少し工夫すればもっと読みやすく
なったのにと思う部分が、素人ながらいくつか散見されました。
せっかくデザイン・インスパイアード・イノベーションの本の訳を
やることになったのだから、もう少しデザインのイノベーションを
起こしても良かったのではないでしょうか。
ただ、22名の訳者は企業内留学の受講生で、基本的に翻訳経験は
初めての人ばかりと思われます。
そういう意味では、よくがんばったなぁとは思いますが・・・。