周航と難破ー偉大なる特異点
★★★★☆
エドガー・アラン・ポー、この偉大な破滅的詩人の、怪奇小説も叙情詩もその本質を知る事は、大変に難しい事である。実父とも生母とも二歳にして別れ、養子として貰われ、育てられた青年前期は、多くの葛藤を内に秘めていたに相違ない。彼が小説や詩を書き始めるのは、ズーット後になってからで、この男は不思議にも空を歌うのだ。空と言うよりもっと上、星を歌い、永遠の星雲を歌うのだ。裕福な養父の下で、五六歳で渡英し、ロンドンで初等教育を受けた、帰国し折角入ったヴァージニア大學も、陸軍士官学校も、放蕩や不品行で追い出され、家では養父と衝突し、身に合わず簡単に飛び出してしまう。彼の破滅の人生の起点は、何処に在ったのであろうか?深酒と、その結果としてのアルコール中毒、一時は阿片を使用していたらしい。ポーとて単なる性格破綻者とは思われず、彼の内面には、それなりの理由があったのであろうが、その生涯は余りに悲惨で痛ましい。
妄想、幻視、は彼の作品の背景としてあるのであろう。しかし作品の印象は深い、怪奇な現象の底にある、人間不信の葛藤と育成歴は、確かに作品に反映されているよう。ユーレイカ、大烏、ポーは青年期の難破点を中心として、その人生は、その周りを周航をしているように思えるのは投稿者だけであろうか?余りある才を開花させる事なく終わった、短い破滅的な人生には心痛む。
幅広いポーの魅力が味わえる秀逸な企画
★★★★★
日本ではミステリの始祖として著名なポーだが、本領は19世紀のアメリカを代表する詩人である。本書はそんなポーの代表的な23の原詩を、見開き2頁で対訳と共に紹介したもの。訳者による詩毎の解説や脚注も充実しており、詩人としてのポーの入門書としては最適である。
「The Raven」、「The Bells」、「Annabel Lee」と言った代表作も勿論収められている。「詩とはこれ、計算である」とはポー自身の有名な言葉だが、象徴詩人の代表格と呼ばれ、その詩の幻想味・ロマンティシズムが印象的なポーの作品が如何に計算を尽して書かれたかの一端が窺える。脚韻の強調は詩の世界では通常の事だが、この他、同一文型の繰り返し、使用する単語を敢えて曖昧性のある語やギリシャ・ローマ神話から選択する、擬音の効果的利用等の工夫が見られる。「Eulalie」はその典型例と言える。この他、人名(恋人、天使等)を題名に冠した詩が多いのも印象的。また、「The Haunted Palace」は「アッシャー家の崩壊」中で使用されている詩だが、解説を読むと詩の方が先に作られた由で、そこからインスピレーションを得て小説を書いたと言う。そんな発見もある。
訳者も推奨しているが、各作を音読して見ると作品の味わいが深くなると思う。詩の文字面からリズムが沸いてくるようである。十代の時の「Alone(これもポーらしい)」から代表作「The Raven」まで幅広いポーの魅力が味わえる秀逸な企画。
ポーの詩は叙情的です
★★★★★
ポーの詩が好きです。特に好きなのはアナベル・リーとユーラールームです。
ユーラルームはポーの妻ヴァージニアが若くして24歳で死んでしまった年に書かれたものです。
アナベル・リーは、その2年後に、ポーが40歳で亡くなった歳に、新聞に掲載された詩です。
ヴァージニアに対する追慕の気持ちがあふれています。
対訳も嬉しいものです。詩は原文で読んだ方が味わいが深いです。
翻訳も絶妙ですが、原詩のもつ美しさが感じられます。
アナベル・リーは律調が弱弱強で、Annabel Lee、sea、me、weと、脚韻も[i:]を踏んでおり浜に寄せる波の響きを感じさせます。
朗読CDも発売されているので、原音を味わわれる事をお勧めします。
ポーといえば怪奇・推理小説が有名ですが、美しい詩人でもあります。
素晴らしい企画の詩集。ルー・リードのファンにも一読の価値あり。
★★★★☆
・私はポーの小説の方のファンである。この詩集はとてもロマンチックで、彼の別の面を知った。非常に意外である。代表作の“Annabel Lee”(アナベル・リー)、“The Bells”(鐘のさまざま)、“The Raven”(大鴉)など23の詩が収められている。
・詩人で英文学者である加島氏の、脚注および解説が素晴らしい。解説は「はじめに」を含めると40ページ以上におよび、詩だけでなく、ポーの経歴、私生活にも言及している(陸軍士官学校中退だったのか)。この岩波のシリーズの、左に原詩、右に翻訳との企画はとても有効で、他の詩人のものも読んでみたいと思う。
・なお、ロック・アーティストのルー・リードは、この詩集に収められている“The Raven”をもとに同名のアルバムを発表している。私がこの詩集を読む気になったのは、そのためであった。
ポーがこんなに素適な詩を・・
★★★★☆
左のページに原詩、右のページに対訳。実に読みやすい、岩波文庫のこのシリーズはどの本もこの方式で、原詩の味、訳者の訳の味と較べられるのが良い。エドガー・アラン・ポーにこんなロマンティックな詩があったとは・・とにかく一度手にとってみれば、新しい発見が。最後にある詩は、有名なThe Ravenです。恋人レノーアを失って、夜中悲しみのポーの部屋を訪れるThe Raven、「Nevermore」と鳴きます。読んでから何日も、黒く大きなカラスの果てない暗さのイメージと、空ろな鳴き声「Nevermore」が心の中で響きます。