生命の起源の研究とその周辺
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「宇宙のどこかにいる生命を見つけるためには、この地球上における生命に関する深い理解が必要なのだ」。
過去の日経サイエンスの記事から、生命の起源に関係するものを集めて一冊にまとめてある。「生命誕生前夜を探る」「われわれとは違う生命体」「RNAワールド時代の名残り」の3章構成になっており、予想より広がりがあって大変興味深かった。
まず、最初の章では、本書の主要なテーマである生命の起源に関して、以下の4つ観点がら説明が行われている。
・RNA起源説
・PNA(ペプチド核酸)起源説
・代謝の方がRNAより先という説
・宇宙からの飛来説
この中で意外に面白かったのは、宇宙からの飛来説。一番ありそうもないように思われるが、いやいや、中間的なシナリヲも含めると、これはこれで検討の価値があることがわかる。
2章での、宇宙における異なる生命体や、人工生命に関する考察も面白く読めた。宇宙空間におけるハビタル・ゾーンの説明を読むと、宇宙空間というのは生命にとってけして楽な環境ではないんだなと実感する。宇宙旅行の計画は慎重に立てたいものである。
3章では、「イントロン」が果たしている役割についての研究が興味深かった。より詳しいことが分かれば、幅広い分野での応用が期待できそうだ。
科学の中でも、起源を追及する研究というのはかなり難しいものだ。誰も見た人がいないのだし、このようなテーマについて、反証できる余地がほとんどない決着に至る可能性は今後も少ないかもしれない。しかし、本書を読んで、起源についての研究は人類の好奇心を満たすためだけにあるのでなく、副次的に様々な成果や応用研究へのヒントをもたらすものなのだということを改めて理解する機会にもなった。面白かった。
生命とはどういうものか 最先端からのレポート
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本書は,生命の起源に関連する諸研究の最新レポート集である.
通常の生命の営みではDNAのもつ遺伝情報に従って蛋白質が合成されるので,DNAが生命の基本要素のように思われるが,DNAは蛋白質の援けなしには複製できないので,最初の生命は蛋白質でもDNAでもありえない.従来RNAは現在の生物では両者の仲介を果たす従属的な要素と見られがちだったが,実はRNAこそ両方の働きををもつ生命の基本的要素であることが分かってきた.最初の生命はRNAでできていたとする考え方をRNAワールドという.本書の最初の6編の論文は,このRNAワールド説に関連する生命の起源に関するものである.続く5編の論文は,地球外生命のいろいろな可能性を考察する.最後の4編の論文では,地球上の既知の生物にも見られるRNAワールドの名残を調べる.
まだ発展途上にある研究の最前線からの報告であるので,ここに述べられていることが将来確実に生き残るとは限らないであろうが,大変興味深い新知見にあふれている.とくに,従来DNAの中のガラクタと思われていたイントロンが,蛋白質合成の調節役として重要な役割を果たしているらしく,高等生物ほどイントロンが多いのはそのためであろうというのは,面白い考え方である.
DNA, RNAなどについて一応の知識があれば読めるので,生命現象について興味をお持ちの方は,是非一読をお勧めしたい.