この作品では日本人の血を引きながら、風習も言語もアメリカ人と変わらない日系人への不当な差別を鋭く描いている。日本人国籍で、留学生であるヒロコは、「敵性外国人」とされ、親戚のタケオ一家共々、日系人強制収容所へ送られてしまう。
ダニエル・スティールは現在における家庭ドラマだけではなく、いわゆる「時代物」も書かれるバリエーション豊かな作家だが、彼女の「時代物」の中でもこの『Silent Honour』はひときわ素晴らしい。収容所での絶望の日々を送りながらも生き抜いていこうとする人々の描写は、激動の時代を生き抜いた人々への人間讃歌に思える。
また、主人公ヒロコの成長ぶりがいい。男性の後ろを三歩下がって歩くような典型的な大和撫子だったヒロコだが、数々の迫害と差別を受けながらも、素晴らしい女性へと成長していく。このあたりのロマンスはもはやスティール作品の「お約束」だが、この作品をスティール女史がアメリカ人としてではなく、人間、女性として綴ったことがよくわかる。
人種差別こそ受けてはいるが、基本的には人間関係に恵まれ、万人に愛される性格と容姿を持つ主人公から、絶望的なまでの苦悩は伝わってこないし、アンハッピーエンドを予感させるような要素がないのでドキドキできなかった。お約束通りの安易なハッピーエンドも私の好みではないです。
しかし、上下巻を一気に読ませる文章力は十分あるし、日本人に関する記述も割合しっかりとしていると思う。何に対しても一生懸命な主人公に共感できる人にとっては感動の1冊になるような気がします。