柴田元幸さんの訳について
★★☆☆☆
サリンジャーが好きで、この作品は原著で読みました。原著のファンとして、好奇心からこの和訳を手に取りました。あの作品がどんな日本語になるんだろう、と。
「こうじゃないのでは?」というのが正直な感想です。
きっと、こういう訳がよいという意見も多いのでしょう。仕上がりに定評のある翻訳家だと聞いていますし。個人的には星の通りの評価なのですが、評価が別れる理由を突き詰めるなら「翻訳とは何か」という根底に対する解釈の相違なんだろうなと思います。
私が何故この訳を認めないのか。その理由は次の一点です。原著の表現が、和訳では変形している。別モノになってしまっているからです。言い換えるなら、原文にはない筈のぎこちなさ、言葉としての不自然さを訳文から感じてしまう。
原著に忠実であるとはどういうことでしょうか。原文のストローク、単語一つ一つを実直に日本語に置き換えていく、というのも一つの見解でしょう。ただ個人的には、あくまで作品の持つ“フロー”が翻訳の過程で犠牲になるべきではないと考えます。日本語と英語では、それぞれの言語が拠り所とする文化的背景が異なるわけです。であれば、”原文に忠実”な作業とは、訳された表現が異なる言語の仕組みの中で、自然に機能するか否かを吟味する所までを言うはずです。
さらに、作品が書かれた当時のアメリカについて良く知らない私から見ても、登場人物の言葉使いに疑問を禁じ得ない箇所があります。文化的/社会的背景を鑑みるならば、もう少し違った日本語のトーンであるべきではないかと。この辺りは様々な解釈の余地があるのかもしれませんが、こうしたディティールの揺らぎも原作の世界観をいくらか損ねているように感じます。
読みつくせない物語
★★★★★
この本を読むのは4回目くらい。かつては角川文庫の鈴木武樹さん訳、そして原書、今回は柴田元幸さんによる新訳。他に野崎孝さん訳の新潮文庫も持っているけれど、読んだっけ、どうだったか。
何度読んでも、深さを感じると同時に、1冊の本としての感想がまとまらない不思議な味わいの本。短編作家としていくらでも書けたんじゃないかと、物語の才能を感じさせる「笑い男」、風俗小説っぽい「可憐なる口もと 緑なる君が瞳」「コネチカットのアンクル・ウィギリー」「ド・ドーミエ=スミスの青の時代」、大戦の傷跡を感じさせる「エスキモーとの戦争前夜」「エズメに--愛と悲惨をこめて」、グラス家物語の「バナナフィッシュ日和」「ディンギーで」、そして早熟で東洋思想を具現したような天才少年を主人公にした「テディ」。
グラス家物語も総体としては未完だし、サリンジャーの世界も花開ききってという前に作家本人が沈黙してしまった。ここにまとめられた9編の物語を通して求められているのは、啓示のような救い、迷いをきちんと認めることなのか、と思うけれど、読むたびに、ぎこちないながらもピュアで上質な短編の、答えの出し切れない世界に引き込まれてしまうんだろうと思う。
怖い、怖すぎる
★★★★★
これは不気味な小説だ。
読むものは例外なく恐怖するであろう。
ぞくっとしてしまうシーンが沢山ある
歴史的不朽の名作といっても過言ではない大傑作「ナイト・オブ・ザ・リヴィングデッド」のジョージ・A・ロメロ監督を敬愛する作家が紡ぎあげた、究極のゾンビ小説集。
スプラッタホラーの鏡のような大傑作。
訳文は美しい。原文の味が見事に出ている。また、不気味なシーンも素晴らしい訳文となっている。