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愛の生活・森のメリュジーヌ (講談社文芸文庫)

価格: ¥998
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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セーラー服に毒饅頭 ★★★★☆
私は早大第二文学部英文科1年のとき(1968年)から金井美恵子の名前を知っている。クラスメイトで親友のNがおもろい(彼は関西で育ち東京在住)女がいるで、お前に紹介してやるよ。と言って「愛の生活」を貸してくれた。関西育ちのNが何で群馬県高崎市の金井と知り合いなのか?忘れてしまった。「ちんちくりんな女でよ、セーラー服きてやがんの」女子高生なのか?本の経歴を見たら1947年生まれで私より1歳年長である。Nはお公家さんみたいな男でピアノを弾きブラスバンドでトロンボーンを吹いていた私を誘ってジャズ研に入った。私は入部書類を貰ってきたが結局はいらなかった。自信がなかったから。金井のセーラー服は名脇役でジャズ好きの殿山泰司の「証言」もある。役者の殿山がなんで金井と知り合いなのかもわからない。27年くらい前「ロッキンオン」で出した新進作家のインタビュー集(村上春樹と竜、高橋源一郎もいたかな。)に金井美恵子も入っていたので読んだら「性格の悪そうな女」だという印象をもった。あん時会っていなくて良かった。Nは私が東大闘争で逮捕され1969年7月に保釈で出たときには大学から姿が消えていた。彼の消息は誰も知らない。金井美恵子は健在である。
抗い難い魅力 ★★★★★
金井美恵子の描く世界は残酷で美しい。この短編集に収められている作品はどれも素晴ら
しいが、中でも特に「兎」が私のお気に入りだ。

庭で飼っている兎を殺して食べる父と娘。娘はやがて捕食者側の立場から、食べられる兎
へと同化してゆくのだが、その狂気とも呼べる世界が何故か異常に魅力的に見えるのは、
稀代の才能を生まれ持った作者の筆の妙か。

ストーリーや筋書きを超えた凄みがこの作家の作品には潜んでおり、それが今読んでもま
ったく古臭さを感じさせない所以なのだろう。歴史に篩いをかけられても、なお後世に残
る秀作ばかりが集められており、小説好きには是非とも手に取ってもらいたい。

村上春樹と同じ匂いの「寂しさ」が全体に漂っていることから、同氏の作品が好きな方に
もお勧め。

残酷で美しい少女小説 ★★★★★
 舌を巻く、とはこのことだろうか。金井美恵子の処女作「愛の生活」のこの新鮮さは何だろう。これは太宰治賞の佳作となった彼女の文壇的なデビュー作だが、このとき氏はまだ十九歳だったという。

 何より新鮮なのは、その何気ない日常の細部に目配せされた視線の緻密さで、台所、食材、煙草、コーヒー、ノート、ペン、手紙、特に食べ物に関しての執拗な描写が出てくるが、普通なら、これら小説の小道具でしか有り得ない多くのさりげない日常のディテールが、まるで壮大な作品の主題のように思えてくるから、不思議である。

 ここには、金井美恵子がデビューしてから十三年ほどの、一九七〇年代までに書かれた主要な作品が収められているが、作品が紡がれるごとに、その批評的精神が突き詰められていく経緯が、何より凄い。

〝書くということは私の運命なのかもしれない〟という極めて美しい冒頭からはじまる「兎」は彼女の初期の代表作であり、さらに、その小説は実は私が描いたのだ、と作者が告発される「プラトン的恋愛」も、やはり彼女の重要な作品だ。

 他にも、金井美恵子という人は短篇の名手であり、魅惑的な作品が数多いのだけれど、これらだけでも十分彼女の豊かな才能を窺うには申し分ない。この作品で興味を持った人は、その後のやはり彼女の代表的短篇を集めた『ピクニック、その他の短篇』をお勧めしたいし、また、〝目白四部作〟なる通俗小説も楽しいし、画期的な長篇『岸辺のない海』というのもある。