サガンの多くの文庫本が品切れ絶版状態なのが不思議です。良質の小説ばかりですから、もっと売り出してほしいのですが・・・

サガンらしい恋愛小説であることにかわりはないのですが、難しいことは考えずに楽しく暮らしたかった一人の男性の話、と見ることも出来ます。あまり意識が高いとも思えなかった、ちょっと遊び好きの普通のいい人が、思いきった行動をとらざるを得なくなること、についての話です。

「水彩画のような血」と共に戦争に対するサガンの思いが伝わってくる作品。ただ、本作「夏に抱かれて」は戦争のひどさをことさらに主張することはない。全く性格の異なる二人の男性と、その間で揺らぐ女性の心情が一番の読みどころ。ひとりは自分を救い出してくれた誠実な、信念を持つ男性で、もうひとりはその親友で、反対にドンファン的である男性。舞台となるフランスの田舎の夏があまりにも牧歌的。だから物語に引き込まれ、忘れた頃にやってくる戦争の現実に呆然としてしまいます。