デュラスもサガンも良さを再認識した
★★★★★
河出書房新社から出ている世界文学全集の第4弾。フランスの女性作家2人、マルグリット・デュラスとフランソワーズ・サガンの代表作が所収されている。
デュラスの「愛人 ラマン」、サガンの「悲しみよ こんにちは」は読んだことがあったが、「太平洋の防波堤」は初めて読んだ。デュラスの少女時代ということだが、ラマンにも通じる濃密なエロティシズムを感じた。
サガンの「悲しみよ こんにちは」は20年ぶりぐらいに読んだが、当時は全く面白くもなかったが、主人公の父親と同じぐらいの年齢になってみて、この小説の主人公は、語り部の少女ではなく、その喜劇的な、あるいは悲劇的な父親であることが分かる。
思春期の女性たち
★★★★★
この三作品に共通なのは、主人公の思春期における性の問題です。
でも、それぞれの作品のテーマは、必ずしもそれがメインではありません。
「太平洋の防波堤」
「愛人」とも共通するのですが、デュラスのインドシナでの体験を題材にした小説です。
ここでは、植民地での生活の夢が破れ、貧困にあえぐ家族を取り上げています。そのバックにあるのは、役人たちの「悪」です。
そこからくる「生活苦」は、母親を狂気の域に立たせ、子供たちはそこからの脱出を図ろうとします。
それを留まらせているのは、「家族」と言う絆です。
「運命」を象徴するかのような「太平洋」が印象的です。
「愛人」
こちらは、主人公が、母親からの自由(生活苦からの自由でもある)を、「愛人」を持つと言う形で得ようとしています。
この女性が主体性を持って自律的に問題に立ち向かっているように思えます。
どちらも、ラストが非常に印象的で素晴らしいものになっています。
「悲しみよ こんにちは」
余りにも有名なサガンの処女作です。
父親と少女そして愛人と言う非道徳的な親子の生活に、道徳的な女性アンヌが入ってくることによる、二つの価値観のぶつかり合いが描かれています。
それに、思春期の少女の反抗心や独占欲といったようなものが入り込み、悲劇を生みます。
少女の「性」と少女の「純粋さ」の描写が、いかにもと言う感じでバランス良く秀逸です。
どういう組み合わせ???
★★★☆☆
私は基本的にサガンもデュラスも大好きです。サガンは中高校生の時に好きでよく読んでいたのに対し、デュラスは20代後半に読み、フランス文学への尊敬を高めました。文学的な価値は全然違うと思います。どちらも20世紀と言えば20世紀だし、女流作家と言えば女流作家だしまあフランスだよね。。。という程度の共通点しかない不思議なカップリングには違和感さえ感じます。フランス人がこの本の組み合わせを見たらきっと驚くだろうなあと思います。
戦後フランス女性の文学の2断面。
★★★★☆
「太平洋の防波堤」・・・植民地時代の仏領インドシナの田舎の話。
人生を懸けて手に入れた土地で失敗し続ける母親とその息子と娘(主人公)のお話です。
親子3人の生活が崩れていくところから始まり、母親が死ぬまでが語られています。
この母親が強烈。ある意味滑稽ですらあります。真面目で、夢見がちで、哀れで、子供を愛している人。
根が真面目な分融通がきかず、そのせいで報われない展開が滑稽で、哀れです。
それ以上に強烈なのが兄。主人公の憧れ、指針なのですが、ワイルドで、媚びなくて、自信に満ちて、自由気ままで、凶暴。
これはめろめろになる人がいてもおかしくないよなぁ、と読んでて実感。
ラスト、その兄の母親に対する感情の一面が見られるのですが、読んでいるとじんときます。
「ラマン愛人」・・・語りが濃密でくらくらしてきます。
中年になった主人公が、思いつくままに自分の過去を語ってゆく造りです。
語り口が上手くて、本当に上手くて、語られる過去についてはよくわからなくてもその感情はなんとなく伝わるのが凄いなぁと思ったことです。
内容が、この本から溢れているのが目に見えるようです。
そして、まぁエロティックな面も、読んでてくらくらさせられます。
恋愛じゃない性関係、性から始まる女の子の成長、独立、目線の変化、そして、老化もかな?
「悲しみよこんにちは」・・・いやぁ面白かった。というか、飲み込まれました。
特に、主人公の感情の綾がいいねぇ。
ちょっとしたことで後悔したり、企みをやめようと思ったり。
その一瞬一瞬は嘘じゃないんだよねぇ。でも、楽しくて仕方ないんだね、自分の無邪気さが・・・。
普段生活しているとその搖れる心はとても表現しにくいものですが、
それを、こんな風に言葉にされると、曖昧なものがハッキリ見えてきます。
そうなったことによる新鮮さと怖さが凄いインパクト。