まさしく奈良・興福寺の魅力の全てを1冊にまとめています
★★★★☆
近鉄奈良駅をおりてすぐ近くにある興福寺の境内を眺めた時、奈良時代からずっと激動の歴史に翻弄されながらも、いにしえの奈良の都の姿を現代に伝えているこの古寺の素晴らしさに圧倒される思いです。特に五重塔は奈良・興福寺のランドマークとして親しまれています。
本書にも実に多くの彫刻(仏像)が紹介されていますが、日本の仏教美術史の中で、特にその仏像の美しさと秘めた価値を考えますと、よくぞ現代まで無事に伝わったことだと思っています。
本書は、興福寺の魅力の全てを古代、中世、これから、という時代順に解説したもので、そのあと教えと行事という章で、宗教的な意味合いも説明していますし、17のコラムでは興味深い歴史事象について語られています。興福寺の歴史ではありますが、日本の歴史の一部分を担っているのは間違いなく、本書も美術史の観点から眺めてよく理解できるような編集になっていました。
個人的には、三面六臂の阿修羅像の美しさに魅了されています。異形の乾漆八部衆立像も生き生きとした表情を持っており、これらが国宝なのも当然でしょう。また78ページから記載されている木造無著菩薩・世親菩薩立像のリアリズムには驚かされます。実際の像は結構大きく、北円堂に今も飾れていますが、運慶の傑作として見る人に深い信仰心を伝えています。定慶作と言われている金剛力士像での筋肉のリアルな表現もまさしく国宝に値します。
また八角円堂の北円堂の建物そのものが国宝ですし、その他に多くの国宝を所蔵している価値ある寺院ですので、本書を片手に一度訪れてみればその魅力を体感できると思います。
巻末に4ページの興福寺略年表と8ぺージの用語解説、2ページの索引がありますので、本書の記載の理解を助けてくれるものでした。