初心者にもよく解る漢文読解のための指南書
★★★★☆
漢文に関して入門から相当程度まで、ものによっては高度な論述までも含む、しかもそれらがいかにも教育者の立場から、噛んで含ませるように説いてある。異色の学習書である。
漢文に関する初歩、文字の発生、六書、字画、字体、字音についてだけでも100頁がその解説に与えられている。
漢文の構文を説明するところでは「鬼に逢うたら逃げよ」とあり、修辞法では「鬼に逢うても逃げぬ」とある、印象的な見出しの下でなされた解説はたいへん興味深い。
処と所の使い分けとかも懇切丁寧に説いてある(221以下、358頁以下)。又、「所」の用法上の勘所の説明も例文に即して明快である。
助字解と題された第十章は約90頁に亙って、焉、猶、尚猶、尚、苟、則、即、乃、輒、便、等々の解説が、様々な出典からの用例を紹介しながら、見事になされている。これならば、漢文学習者は、学習するたびに新鮮さは当然ながら、納得しつつ、読み進むことができよう。「すなはち」と読む助字の中でも、例えば、輒は「毎事即然也」という字書の註を引き、「いつでもそうだ」という意味で、「其の度毎にすぐに」とか「たやすく」と訳せばいいとか、便は「物事に故障なく、すらすらと進行する意となる」とか説いている。
その適切な用例も漢文の多種多様な原典から採用されており、400頁を超える本文を読了するころには、学習者は漢文の食わず嫌いはすっかり卒業しているのではないだろうか。正仮名遣いで書かれているのも何ら違和感を持たないほど慣れもしよう。但し、本書は、この種の学習書としての内容の充実度を誤記誤植によって低めているのが如何にも惜しまれる。よって、実質的には星五つ。しかし、語学学習書という側面を考慮して、星四つとした。
願わくば、このような良書は、漢文漢籍への優れた導入書少なき折柄、明徳出版社には補正版をソフトカバーの廉価版にてご提供して頂きたい。