渋谷にあるBunkamuraシアターコクーンの芸術監督として活躍している、日本を代表する演出家、蜷川幸雄。この本はシアターコクーンの公演プログラム「COCOON」に連載された「ニナガワ・オデュッセイ」を再構成したもので、国境を越えて活躍している各界の人物と蜷川の対談集である。おもしろいのはその人選。山本耀司や安藤忠雄、藤原新也、村上龍など、活躍しているフィールドや年齢もさまざまな、異才の持ち主たちが招かれている。そして、蜷川自身「才能のある人たちというのは、どうして率直で開かれた感じがするのだろうか」と書いているとおり、招かれた各界の第一人者たちは、驚くほど饒舌(じょうぜつ)に、既存の価値観への「反逆」と新たな「クリエイション」を語り尽くしている。
市川猿之助を除いたすべてが鼎談(ていだん)の形式をとっているのだが、蜷川自身が2人のゲストを選んだ回もあれば、1人のゲストがもう1人を指名してきた回もある。また進行も、嬉々として語るゲストたちに流れをゆだねている回もあれば、野田秀樹とサイモン・マクバーニー、真田広之と熊川哲也などといった、演出家同士、あるいは舞台表現者同士で盛り上がりを見せている回もある。文体は読みにくくならない程度に語り口を尊重しているため、読者は、蜷川自身も演者として参加している緩急さまざまなテンポの舞台を観ているような感覚を楽しむことができる。(朝倉真弓)