エミネムは『The Slim Shady LP』ですべてを求めた。彼には葛藤がある。つまり世間は彼に冷たかったので、彼としてはお返しをしてやりたかったのだ。しかし生粋のギャングスタ・ラッパーというわけではなく、それに何と言っても、ドクター・ドレーがデス・ロウ・レコードを辞めて作ったアフターマス・レコードからの初めてのリリースなのだ。それにエミネム(本名マーシャル・マザーズ)は誰にも自分と同じ道を歩んでもらいたくはなく、その結果このアルバムには面白い矛盾が生まれた。最初の歌My Name Isでは自己卑下をして、その貧しい生い立ちと毛深い手の平をラップで語っている。ところが、すぐ次のGuilty Conscienceではドクター・ドレーの天使に対して悪魔の役を演じている。つまり、エミネムがドレーの悲惨な過去からある出来事を取り上げるまでは、ということだが。「ディー・バーンズを張り倒したような奴のアドバイスを受けるって言うのかい?」とラップで語っているのだ。その後の'97 Bonnie & Clyde,では、ウィル・スミスのJust the Two of Usを殺人の物語に一変させている。ところがMy Faultでは本当に後悔してしまった。もっとも、オーバードーズした少女のためか、自分のためかは判断に苦しむところだが。鼻にかかった中西部風の口調のマザーズは、透明感のある語りもきれいだし、ドクター・ドレー、マーキーとジェフ・バスによる制作は歯切れがよくいつでも楽しい。彼の態度からして、エミネムをあまり真剣に捉えることは難しいが、真面目に捉えなくても十分楽しめるアルバムを作ってくれた。 --Randy Silver