バレエ団で野心を燃やす青年(「少年」に見えるが)に暗い過去が訪れる…「母は父を殺した殺人者だった」。それをきっかけに彼は恋人に手を上げるドメスティック・バイオレンス男と化し、バレエ団でも上手く行かなくなる、のだが、母と再会・和解した途端別人28号、すべてが癒され、バレエ団でも認められる。「んなわけねーだろっ」と叫びたくなるような、公式的・還元論的に組み立てられたトラウマ&癒し漫画。
もっとも痛いのはメインのカップルにまったく魅力がないこと。主人公の青年は男ではないしその恋人は女ではない。
この後『残酷な神が支配する』で蘇るが、この時期の萩尾さんは「忘れられた漫画家」と化していた。そしてこういう話ばかり書いていた。「現在」のすべてを「過去=親」に還元するポピュラー・サイコロジーの世界である。