哲学の価値
★★★★★
一度ならずと哲学に絶望しつつそれでも手にとる哲学書の中で、この本の著者、上田氏の書かれたものは一読に値する。鈴木大拙と学としての哲学の接点は、彼のような誠実と頭脳を併せ持つ哲学者だからこそ描くことができ、また彼の文は一幅の墨絵のように清澄である。ある講演会で氏が「我は我ならずして我なり」と身体を使って・・大きく両手で天にまるを描く・・表現してくださった姿が忘れられない。黒姫山の詩の解題とあの姿が繰り返し私の内によみがえる。実存という言葉の重みに内なる虚存の深みをあわせ鏡のように持ってこそ、自由に生きられるのではないか。上田氏の丁寧な仕事に感謝の念を覚えるとともに多謝。