九十年にこれを書けるのですから、
★★★★★
弟のダニーはまとわりついてうるさいし、姉のクレアを文句を言ってうるさいし、間に挟まれて一家の中でなんだか存在感薄くないか、パトリック。
パソコン店で、無料ゲームを店主に怒られないようにこっそりするのが時間つぶしのパトリック。なんだか暗い?
そんなゲームの最中、モニターの中からパトリックを呼ぶ声。テレビのクイズ番組に出演の権利を得たとのこと。え、なんでモニターがぼくに話すわけ?
半信半疑のパトリックでしたが、指定の時間にテレビの前に立つと、別の世界へワープ! 捜し物番組に出演させられ、別の世界からパトリックの世界に飛んでいってしまったたいせつなものを見つけてくれば、ゲームがいっぱい入ったパソコンを商品としてくれるという。
なら、やるしかない。
しかし、これ本当の出来事?
エミリー・ロッダお得意の、軽いエンタメです。もちろん、物語当初に置かれた、パトリックの不満はちゃんと回収されて終わります。巧いです。
難があるとすれば、書かれたのが二〇年前という点。当時の最先端風景、コンピューターやテレビゲームは、さすがに今は古い。でも、九十年にこれを書けるのですから、エミリー・ロッダはやっぱりすごい。
別の世界との壁って、ベルリンの壁と考えるのは深読みが過ぎますかね。
杉田比呂美の絵も相変わらず良いです。(ひこ・田中)
高学年向き
★★★★★
低学年だと、少し難しいかもしれません。我が家では高学年の子に毎晩少しずつ読み聞かせをしました。かなり楽しかったです。
ふしぎな世界の面白さと少年の成長を描く人情味溢れる名作児童ファンタジーです。
★★★★★
〈リンの谷のローワン〉〈デルトラ・クエスト〉シリーズの大ヒットで世界中から愛されるオーストラリアの人気女流児童文学作家ロッダが1990年に発表した名作ファンタジーです。本書は著者が得意とするふしぎな世界テーマの作品で、十八番のおもしろいなぞなぞも出て来る誰もが時間を忘れて一気に読み終えてしまう傑作です。パトリック少年は3人姉弟の真ん中で、姉さんのクレアとはよく口げんかし、我儘な小さい弟ダニーに我慢しなければならず、おまけに失敗しては母さんのジュディスからもよく叱られる不満な日々を送っていました。そんなある日パトリックが学校帰りのコンピュータを売る店で一台のパソコンを触っていると画面にクイズ「さがし物チャンピオン」に出場しませんか?というメッセージが出て来て、そこから不思議な世界への扉が開きます。普通は放送してなくて映らない8チャンネルがショッピングセンター〈くりの木ヴィレッジ〉にあるテレビに一瞬の間だけ映り、こちらとあちらの国を結ぶ中継地点になっているという便利な設定が面白いです。パトリックは向こうの国へと招かれて3人の「さがし人」から暗号メッセージを託され、自分が「見つけ人」となってここで3人が失くした物を元の世界でそれが何かを推理しながら探し、もし一週間で見つけたら豪華商品がもらえるクイズ番組に挑戦します。本書の読み所はなぞなぞを解く面白さや解けても必ず障害が起きて時間ギリギリまでハラハラドキドキ焦る展開になる所、そしてパトリック少年が商品目当ての自分の欲深い心を恥じて悩む場面でしょう。作者は最後に大小2つのびっくりを用意して読者を驚かせてくれます。向こう側の人々との友情や困難な試練を通じてパトリックは確実に成長しており、次第に家族と心を通わせ信頼で結ばれるのが喜ばしく一番の収穫でしょう。本書は面白く読めて大切な事も学べる児童ファンタジーの名作だと思います。