多少なりともトロンボーンと云う楽器を実際に知っている者なら、この楽器で「熊蜂の飛行」とか「子犬のワルツ」等の高音域でしかも無茶苦茶速い曲を演奏しようなどとは夢にも思い付くまい。だが、そんなバカみたいなことを思い付き、しかも見事にそれを実行してしまうのがクリスティアン・リンドベルイ。私が初めて彼の演奏を聴いたのは高校生の頃だったが、その時は常人離れと云うよりもう殆ど人間離れしたその神業の数々に、驚くとか呆れるとか云う以前に笑い出してしまったものだ。

私が最初に聴いたのがこのCDだったのだが、これから初めてリンドベルイを聴く、と云う人にはやはりこれを薦めたい。アクロバティックな曲や物静かな曲、前衛的な曲やたっぷり朗々と歌い上げる曲、割とヴァリエーションが豊かで、リンドベルイの演奏の幅を知るには丁度いい。個人的にお薦めなのはヒンデミットのソナタとマルタンのバラード。やはりTb用に作られた曲は聴かせ方がいい。ベリオのセクエンツァは曲と云うより殆ど「実験」だが、Tbと云う楽器を使った珍しい「演奏」法が聴ける。

収録曲は以下の通り：熊蜂の飛行(R＝コルサコフ)、TbとPfの為のソナタ「ヴォクス・ガブリエリ」(シューレク)、TbとPfの為のバラード(マルタン)、チャルダーシュ(モンティ)、愛の悲しみ(クライスラー)、スコットランドの釣り鐘草(プライヤー)、TbとPfの為のソナタ(全4楽章、ヒンデミット)、セクエンツァ(ベリオ)