北京五輪でずいぶん「開かれた」とは言え、私たちの目に見えたのは大都会のごく一部。中国の庶民の生活は、まだまだ見えてこない。かえってもっと内陸の砂漠に近いシルクロードの道筋が、日本のメディアに登場する景観だろう。
筆者は、そういう観光地もふまえつつ、とても普通の観光客が行くとは思えない形で、中国南部の広州や貴州省の中に乗り込んでいく。この地域は比較的日本と気候や風土が似ていて、文化的にも「日本人のルーツ」であると言われているが、観光ツアーでは「客家土楼」などの建物しか目にせず、そこに在住している人々の暮らしをうかがうことは難しい。好奇心の塊の筆者が、住民と寝食をともにし、動物の捌き方からトイレの処理方法まで見て聞いて書かれた本である。
「イスラム編」ほどのハラハラ体験はないが、人々が旅人を招き入れる時の温かいもてなしと、自らの「中国への偏見」が少しずつ崩れていく読後の味わいがとてもいい。