中国マーケティング必読
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この本は、海外市場の捉え方や考え方の基本を明快に説いている。「コンテキスト」や「地域暗黙知」など聞き慣れない難しそうな用語も出てくるが、多様な事例を挙げつつ非常に分かりやすく納得させてくれる。冒頭の冬ソナが流行した分析もなるほどと面白いが、7章の中国市場の分析がユニークでとても役に立ちそうだ。日本企業がやらねばならないことは、日本のコンテキスト=地域暗黙知から脱皮して、中国や韓国のコンテキストの中で、自己の商品やビジネスの意味を正確にとらえることに尽きるというのが論旨。では、各国市場のコンテキストはどうとらえるべきか。それは、気候や歴史的経緯、年齢構成およびその変化などから読み取るという考え方が示されている。これにも説得力がある。東南アジア編も読んでみたい。
文化論からの脱却
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地域暗黙知というのが、この本のキーワードらしい。アジアの市場やビジネスに関する本、とくに中国ものは、ほとんどが安っぽい異文化論に終始しており、結局は「文化が違うんだからあきらめなさい」とでも言わんばかりの内容である。しかし、本書はまったく違う。これまで文化論で片付けられていた海外市場の違いを、著者が「意味付けの技法」であるとする「暗黙知」が地域ごとに異なっていることに起因するものと捉えている。暗黙知は個人に修得された知ではあるが、部分的に世代や地域ごとに共有化されるものであることから、それが消費の地域的な違いとして表面化するという論理である。つまり、つかみ所のない「文化」の違いとして曖昧に一括されていたものを、さまざまな集団内で共有化された暗黙知の違いとしてとらえ、分析可能にした点が特徴であろう。
ただ、本全体は東アジア市場の消費特性の話が歴史的な背景と共に具体的に述べられており(それはそれで大変面白いが)、この地域暗黙知の話は最後の最後の部分でしか出てこない。もっと、最初に提示してもらえるとよかったし、1章分割くくらいのつっこんだ議論があってもよかったのではないか。その点が惜しまれる。とはいえ、中国、台湾、韓国の市場特性を多くの事例を用いながら多角的に捉えた上で、最後にアジア市場をこれまでと違う論理の枠組みで読み直そうとする本書の試みはユニークで深いものを感じる。一読の価値はある。