70年代に1年間だけ生産されたブライスは夢見るような表情の人形で、熱いまなざしを注ぐファンが増えつづけている。フォトグラファー、ジーナ・ガランはブライスの持つ魔力と風変わりな姿に数年前に魅了されて以来、ギリシアからソーホー、レストラン・フーターズに至るまで世界のあらゆる場所を背景にしてその写真を撮り続けている。いかにも楽しくてうっとりさせられる、それでいてどこか不気味な感じも漂う写真集『This is Blythe』は、ガランの並々ならぬ情熱の結晶である。本を開けば美術館をゆるやかに歩くファッショナブルなブライス、ぴったりしたブルーの毛皮のパーカーに身を包み、背に太陽のオレンジ色の光を浴びている物憂げなブライス、氷の壁から現れるブライス、などが現れる。この場面のブライスはクリスマスの願いごとをサンタクロースに告げているのだろうか。制作されなかった(あるいは制作中か?)映画のスチール写真を並べたような、まぎれもなく美しい写真の数々は、それぞれが完ぺきな構図を持ち、完結した世界を作り上げている。なにも言わずに大切な人にプレゼントするだけでいい、この写真集の風変わりなムードは、ちょっとクールな写真が好きな人、それにポップカルチャー・ファンを虜にするに違いない。