二人称の死から始まる思想
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西田幾多郎・鈴木大拙・西谷啓治に田辺元という、近代日本哲学史上の著名な人物の思想を、肉親の死との遭遇を手がかりとして読み解いた一冊である。子であり、親であり、妻であり、そうした親しき人の死に直面したことが、彼らの思想にどのように反映しているのか。加賀・能登出身の同郷人にして友人関係もしくは師弟関係にあった前三者は、必ずしも死そのものをその思想の全面に立ててはいないけれども、そこには親しき者の「二人称の死」の経験が確かに反映している。著者はそのように読み解く。
そうした読み解きの最後に、晩年「死の哲学」の構築に取り組んだ田辺元が取り上げられているのも実に自然な流れと言えよう。死者と生者との「実存共同」を考える田辺晩年の思想は、著者が挙げるようなターミナルケアやグローバル化と伝統との関係の問題に取り組むカギとして注目に値するだけでなく、自らの問題として死を考える手引きともなるだろう。
「近代における死」についてもそもそ考えている評者としては、今まで読まずに見過ごしていたのは迂闊であった。