人と動物をめぐる探求の途上で
★★★★☆
著者が2000年代に色々な媒体で発表した、人と動物との関係をめぐる論考を集めたもの。サブタイトルからもわかるように、特に人間が他の動物を殺し食べることをめぐる文化の意味についての思索が中心となる。話題を呼んだ坂東眞砂子氏の「子猫殺し」をめぐるエッセイ、鈴木大拙や宮沢賢治の肉食論などについて検討しながら日本史における仏教(宗教)と殺生の問題を問い直した論考、鯨供養の実践や狼をめぐるフォークロアから読み解く日本人の動物に対する態度の分析、ユーラシアの東西における家畜文化の相違論をベースにキリスト教的発想に基づく西洋の供犠理論を見直すこと、などなど、興味深い話が色々となされている。
これから探求すべき仮説的見解もいくつか提示されているが、著者はつい先ごろ亡くなった。本書がほぼ遺作に近いかと思われるが、ここで示されている豊かな問いを引き受ける後続の研究者がいてくれることを、勝手ながらも切に願う次第である。