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イエメンで鮭釣りを (エクス・リブリス)

価格: ¥2,625
カテゴリ: 単行本
ブランド: 白水社
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英国風のユーモア ★★★☆☆
 タイトルから、少し哲学的随想風小説家と思ったら、ただのユーモア小説。本屋に行って棚から一掴みで買ってきた本です。ちょっと表紙が気に入ったので買いました。読んでみると本当にイエメンで鮭釣りする話し。それもスポーツフィッシュイングです。

 英国流のユーモア小説で、これは最後をCGで映像化して映画化すれば迫力あるかも?と考えるのはゲスの考えか。英国民が読めば政治家描写は、ああこいつはあの政治家を皮肉っているとわかるんでしょうが、日本人には、ふーん、と言う感じでそれほどビビットではないのです。

 結末は、えっ、というものですが、英国流のユーモアなんで淡々としています。手法は手記、日記、e-mail、新聞記事、報告書で描くもの。しかし、小説に書かれる日記は、こんなに写実的に長々日記書くヤツはいねだろうという感じです。

 日本ではちょっと受けにくいユーモアです。ところで、この小説に描かれるアラブの富豪は哲学的でもっとも紳士的に描かれています。これは事実かもしれませんね。イエメンの山奥に出てくる少女のエピソードなどちょっと感激ですがね。
1つの物事に関わった人々、それぞれの運命を描く ★★★★☆
イエメンで鮭釣りという変わったタイトルなのだが、その名の通り、そういうプロジェクトを推進する話だ。かといって科学的なものではなく、それに関わった人々の物語で、しかもかなりドラマティックだった。最後の最後まで。

 イギリスのアルフレッド・ジョーンズ博士のもとに、イエメン西部での鮭釣りプロジェクトの問い合わせが来る。話をもちかけたのはフィッツハリスという会社で、そこのハリエットという女性社員から連絡が来る。この会社は不動産売買やコンサルタントのみならず、農業、猟、釣りのための貸別荘の手配や、カントリーハウスの建築許可などを請け負っている。そこにイエメンのシャイフから依頼がきて、ジョーンズ博士にそれが可能か問い合わせたのだ。

 鮭を生息させるのに必要な条件が、水温、餌となるハエ、鮭がたどり着ける海、孵化場の設置などで、これらが揃わなければならない。

 このプロジェクトにはやがて首相官邸の広報担当者から首相まで巻き込まれていく。その様子は一本調子ではなく、その形式もバラエティに富んでいる。日記、メール、書簡、インタビュー、自伝、議会議事録、TVパイロット版、新聞記事などだ。

 この過程で、ジョーンズ博士、そしてハリエットの人生が大きく変わる。そしてシャイフや首相も・・・。途中で、ジョーンズ博士の妻、メアリーは国際銀行の金融のスペシャリストで、バリバリのキャリア・ウーマンなのだが、ハリエットもキャリア・ウーマンを自負している。だが、その風貌、ファッションなど真逆で、お互いにキャリア・ウーマンらしくないと思うところなどが面白い。

 全体的にちょっとなかったスタイルの小説ながら、プロジェクトの背景の人間関係が面白い作品だった。
信じるということを信じられるようになった大人の男の物語 ★★★★☆
『イエメンで鮭釣りを』面白かった。
<信じることを信じられるようになるために>主人公のジョーンズ博士はずいぶん多くのものを失ったわけだけど(鮭プロジェクトに関わる前に持っていた、世間的な「いいもの」はほとんど失って)、それで代わりに得たものに彼はまんざらでもなさそうなのが痛快なのだ。

世界は刻一刻と生まれ変わり、小説は反映する。
ジョーンズ博士のアシスタント・ハリエットの恋人はイラクへ出征してそこで汚い作戦に利用されて命を落とす。そのショックでハリエットは博士のもとを去り、ジョーンズ博士は失恋を経験することになる。アルカイーダの傍受メールが飛び交う職場の混乱のなかでも、実直な水産学者のジョーンズ博士は、鮭の稚魚を砂漠の大河に放流するというバカげた国家プロジェクトを投げ出さない。

この小説は最後まで読んだほうがいい。ラストで鮭をイエメンで放流するシーンは文章を読んでいて圧巻だった。すべてを失って、もしかしたら最初で最後の恋も失って、それで彼のなかに最後に残ったものが鮭プロジェクトの皮相な顛末である。偉大なるマスターマインドであったシェリフの最後。そして物語そのものの不可解さを象徴するような関係者の態度の激変。しかしシェリフがジョーンズ博士の記憶の中に残して行ったもの・・それが「信じるこころ」であった・・という大人のための小説である。こうして書くとバカみたいだが、読者を納得させてしまうのが作者の力量。

しかし作者は、砂漠の国イエメンに行って、鮭の稚魚を放流するというプロジェクトに巻き込まれる水産学者の小説・・なんてどうやって設定を思いついたのだろう?
相互理解・不理解の物語 ★★★★☆
「イエメン鮭プロジェクト」って言葉だけでもう楽しそう。書簡やインタビュー形式で構成されていて、リーダビリティはかなりいい。でも、そのベースに流れているのは、シニカルで、黒い笑い。物語のテーマは相互理解・不理解。個人、夫婦、国家、文化……完全に理解し合うことは不可能だけど、それを含めて相手を認められるようになって始めて、人は成長できる。それができない、戯画的に描かれた官僚の姿は吐き気を催すほどで、そういう意味では広報官のマクスウェルが主人公。彼の「プライズ・フォー・ザ・ピープル」は最高に最悪。オススメ。